第17話 ドラゴニラムの恩返し

「おう、おはよう!!」

 朝になって目を覚ますと、アルマが剣をベッドに並べていた。

「おはよう……随分あるね」

「うん、全部旅の途中で手に入れたものだよ。この前のエクスカリバーなんかもそうだね。イマイチ乗り気にならなくて使ってないけど、こういうのが好きなのが聞いたら卒倒するんじゃない。全部、伝説級の業物だからさ!!」

 確かに、僕ですら凄そうだなと思うくらい、どの剣も異様な存在感を放っていた。

「勿体ないっていえば勿体ないね……」

「まあ、こんなのでゴブリンとか斬って喜んでたら、それこそ怒られるぞ。明らかにオーバーキル。やり過ぎだ!!」

 アルマが笑った。

「剣一筋って感じ?」

「まあ、そうか。得意なのはショートソード程度のサイズだけど、やれといわれりゃクレイモアでも一人で抱えて走り回るぞ。クレイモアって、知ってる。両手で抱えるように使うバカデカい剣なんだけど」

「……剣はあんまり分からない。ひのきの棒よりは強そうくらいしか」

 アルマが笑った。

「ひのきの棒でも構わないぞ。何だって叩き斬ってやる!!」

「……あれ、刃なんてあったっけ?」

 アルマが笑みを浮かべた。

「そういう意味じゃ、この前お父さんに作ってもらったやつがベストなんだよね。いい腕してるじゃん。ここまで狙い通りの剣は、まずないからね。いくらオーダーしたって、職人が分かってくれないもん」

「うん、あえていうけど、お父さんはそういう拘りの変な武器を作るのが大好きなんだ。目を見れば、どんな武器が欲しいか分かるとかいっちゃって。アルマも多分、三秒も掛からず読み取ったよ。ここで、まあ普通のお客さんだったら相手しないね。つまり、極めつけ変な客って意味だよ。いい意味でね」

 アルマが笑った。

「私の癖まで読み取ったってか。あれただの剣じゃないぞ。他の人が使ったら、まともに扱えないんじゃないかな。もう、ジャストフィットで手放せないぞ!!」

「それは良かった。さて、僕はそろそろきてもおかしくないぞ。あれだけ派手に禁止されている魔法使っちゃったからね。こんな称号を持ってると、常に監視されてるからね。山の一個や二個吹き飛ばしても、またやりやがったアイツって笑って許してくれるけど、死者蘇生はマズい。反対の無条件で即死させる魔法とセットで、魔法使いとして絶対にやったらいけない事だし、それを使ったのはもうとっくにバレてるよ。分かってても我慢が出来なかったんだ。だから、後悔はしてないけどね」

 僕は笑みを浮かべた。

「なに、バレたらヤバい感じなの?」

「うん、さっさと捕まって無条件で死罪が妥当かな。例え救うためでも、魔法で命を直に操作するんなんて暴挙は、絶対に許してもらえないからね。こんなこと許されたら、大混乱になっちゃうよ。それ以前の問題だけどさ」

 アルマがスッと真顔になった。

「……させると思ってる。過激ではあったけど、君は間違った事はしてないって私は思ってるからね。誰がなんといおうとね。そういうのを全部纏めて叩き出すのが、私の仕事だと思ってるよ。相手が誰だろうが何だろうが、くそ食らえってもんだ」

 アルマはそっといつもの剣を持った。

「……こ、ここで暴れたら、シャレにならないから!!」

「……あれやって首が飛ぶだと。そんな野郎は、こっちが首と体を泣き別れにさせてやるよ。いつでもいいぜ」

「だ、ダメだ、聞いてない!?」

 慌てていると、タイミング悪く玄関の扉がノックされた。

「……待ってろ」

 剣を片手にアルマが扉を開けた。

「……な、なに、その怖い顔?」

 なにかいおうとした、数名の役人の腰が引けた。

「……帰れ」

「……そ、そういうわけにはいかぬ。こっちも女房子供の生活が掛かってるんだ。もう分かっているだろう。大人しく同行しろ!!」

 根性で役人がいった。

「……こういう仕事だもんね。当然、危険手当はもらってるよね。それがどういう意味か、ここで教えてあげるよ」

 アルマが指をバキバキ鳴らした。

「も、もらってるけど、ここまで露骨に危険が迫るとは。無駄な抵抗はするんじゃない。こんな事態は想定済みだ。腕利きの魔法使いを揃えてる!!」

「……だから?」

 アルマが殺気を放った。

「……こ、怖いぞ、マジで怖いぞ。しかし、ここで仕事をしなくては、家族が路頭に迷ってしまう。お父さんは大変なんだぞ!!」

「アルマ、もういいって。お父さんが泣いちゃうから。僕が行けばいいだけだし」

 僕は苦笑して玄関に向かった。

「……すっこんでろ」

 アルマに摘ままれて放り投げられた。

「だ、ダメだ、もうなんかブチキレてるっぽいぞ!?」

 アルマに火球が当たって軽く爆発した。

「……それで?」

「ダメ、今のは威嚇だから。次は本気できちゃうよ!!」

 アルマが笑みを浮かべた。

「……やってみろよ。後悔しても遅いからな」

「ダメだって、徴発したら!?」

 僕は慌ててアルマの隙を突いて玄関から飛び出た。

「あっ、こら!!」

「これでいいんだって、当たり前なんだから」

 ビビりまくっていた役人が、やっとため息をを吐いた。

「全く、怪しい押し売りじゃないってのに……実はもう国王様の裁きは出ているのだ。内容はいうまでもないだろう。どうやったって申し開きは出来ないだろうからな。つまり、移送するだけ無駄ということで、この場での処刑が命じられている。効率よくな」

 僕の前に三人だった。

「……あのさ、僕の魔力分からないかな。じっとしててもこのくらいになっちゃうんだ。この三人がいくら頑張っても、基礎魔力の勝負で全部弾いちゃうよ。ごめんね」

 役人が笑みを浮かべた。。

「さすがだな……それでいいのではないか。やれ!!」

 三人が同時に撃った何かは、僕の体に当たる事すらなく弾けた。

「ほら、効かないだろ。こんなヤツ相手に、近づくと危ないから、遠くから魔法で仕留めろなんて命令を出す方が悪い。これでも、王都で最高の腕前を持つ魔法使いなんだぞ。まあ、下っ端はいわれた事をただやるだけだ。撃つには撃ったからな。まだぶん殴った方がマシだっていったのに、全然聞かなかったのは上司だからな。もう、知った事じゃないぞ!!」

 役人の集団が撤収していった。

「あ、あの人、なんか嫌な事あったね。よっぽど、上司が嫌いみたいだね!!」

 アルマが笑って出てきた。

「なにが撃っただよ。あれ、攻撃魔法ですらないよ。まさに、撃つには撃っただね。攻撃魔法なんていってないから。最初からやる気なんてなかったとしか思えないよ」

「なんじゃい、支持者はいるってか?」

 僕は笑みを浮かべた。

「そんなに甘くはないよ。こんな冗談みたいなので終わるわけないでしょ。さっきっから、今度こそ本物の攻撃魔法のターゲットにされてる。でも、おかしな。もうとっくに撃ってるはずなんだけど……」

「なに、冷静に分析してるのよ!!」

 アルマがさりげなく剣を持った。

「まあ、撃とうが撃つまいが、私がやる事は一つしかないぞ。いったって聞かないからな。相棒!!」

「またムチャを……剣で攻撃魔法は斬れないよ?」

 僕は笑みを浮かべた。

「やってみなきゃわかんないでしょ。なんでも気合いだ!!」

 しばらくすると、このまえのドラゴニラムのお姉さんが下りてきた。

「安心してください。もし、あなた方に手出しなんかしたら、ドラゴニラム全員が黙っていませんから。このマッスルボディで国王様を脅しておきました」

 お姉さんが笑った。

「おや、なんでもやっとくもんだね」

 僕は笑みを浮かべた。

「……脅すなよ。一応、国王だぞ」

 お姉さんがニヤッと笑みを浮かべた。

「まだ忘れてないはずですよ。ドラゴニラムの領域に手を出して、どんな痛い目を見たかをね。国王様の頭がまともなら、間違っても喧嘩を売ろうなんて思わないはずです」

「……なんかやったの?」

 お姉さんが頷いた。

「なにをとち狂ったのか、当時の国王様が私たちの土地を取り上げようと軍を動かしたんです。それで、頭にきた私たちがこっそり隠してるドラゴンの血が生み出す力を解放した上で思い切り暴れて、あっという間に壊滅させたという事件があったんです。まあ、有り体にブチキレたというヤツですね」

「そ、それはまたど派手な……」

「やっぱり、脅したネタはマッスルボディだけじゃなかったぜ」

 お姉さんは笑みを浮かべた。

「ただ、これをやってしまうと、力が尽きると同時に命を落とす事になります。まさに、捨て身の超絶ブチキレ状態なのです」

「よ、よっぽど頭に来たんだね……」

「い、命燃やして暴れたんかい……」

 お姉さんは頷いた。

「私たちが生活出来る土地は限られているのです。それを取り上げようなんて事をされたら、当然そうなります。その記録はまだ新しいはずですよ。今はあなたがたです。なんかちょっかいだそうものなら、全ドラゴニラムが一斉に王都を襲撃するでしょう。国王様だって襟首掴んで躊躇なくぶん殴ってみせます。考えが変わるまでね」

「……か、過激だ」

「……凄い事になったぞ」

 お姉さんがフッと辺りを見回した。

「それで、それが今ちょっかいだされてる状態でして。攻撃魔法で十字砲火ですか。さて、王都が無事だといいですね。私としても、早く国王様の考えが変わる事を願います。あの力でぶん殴ったら、さすがに痛いと思いますので」

「……うわ、今まさにやってるんだ」

「……おいおい」

 お姉さんは笑みを浮かべた。

「これがドラゴニラム式の恩返しです。今回は半端ではありませんので、私たちの気合いと根性も半端ではありませんよ。ちょいちょいうるさい王都とか、なんか色々鬱陶しいのはお任さい。全部、徹底的にぶん殴って考え直してもらいますから」

「……ぼ、暴力反対!?」

「なんか、すげぇ味方が出来たぞ」

 アルマが笑った。

「うん、それはありがたいんだけど、魔法使いとしてはダメだよ。我慢出来なかった時点でダメなんだ。そういう訓練してるんだけどな……」

「なにがダメなんですか。ぶん殴って考えを直しましょうか?」

 お姉さんが指をバキバキ鳴らした。

「ご、ごめんなさい!!」

「こら、手当たり次第にぶん殴るな!!」

 お姉さんが笑った。

「これが答えだと思いませんか。王都を半分くらいぶっ壊して、国王を死ぬほどぶん殴ってまで、これが正しかったと教えているんです。杓子定規の考えなんてくそ食らえだって。魔法って、そういうものじゃないかと。助けて頂いた当人が、そこら中ぶっ壊してぶん殴って、文句いいたきゃいってみろって自主的にいきましたからね。それが、あっという間にドラニラム一族の共通認識になってしまった。少なくても、間違いではなかったと思います」

「そ、そこまでしなくても……」

「いーや、分かるぞ。こんな子をみすみすやられてたまるかっての。王都だろうがなんだろうが、場合によっては殴り込んでやろうと思っていたけど、もうやられちゃったよ!!」

 アルマが笑った。

「はい、冗談ではありません。もう、ドラゴニラム一族の間ではほとんど神様みたいな扱いをされていますので、そんなのに手を出す不届き者はただじゃおかないと!!」

「か、神様!?」

「おう、そりゃいいじゃん。なんか偉そうにしとけ!!」

 お姉さんは笑みを浮かべた。

「まだ狙ってますね。情報伝達が遅いのか、まだ懲りないのか。どれ、ちょっとぶん殴ってきます」

 お姉さんが空に飛んでいった。

「ど、どうしよう、大騒ぎになってるよ!?」

「そりゃなるだろ。神様ときたか、間違ってないな!!」

 アルマが笑みを浮かべた。

「迷うことはない。正しい事をしたって証明だな。ちっと、過剰反応だけど!!」

「ちょ、ちょっとじゃないよ。国が壊れちゃうよ!?」

 アルマが笑った。

「だって、自主的にいっちゃったんだもん。なにがなんでも認めさせようってさ。そしたら、なんかみんなで暴れにいっちゃったみたいだけどね。これのどこに、悩む余地なんてあるの。魔法使い云々なんて知った事かってね!!」

「……これで悩んだらぶん殴られそうだからやめよう。間違ってなかったらいいや」

 僕は笑みを浮かべた。

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