第16話 臨時休業?

「さてと、なんか働いちゃったぜ!!」

 椅子に座りアルマが笑った。

「旅って大変だねぇ。面白いけどさ」

 僕はテーブルの上に丸くなった。

「全く、気弱なニャンコ様だと思ったら、事ある度に大暴れするんだもん。驚くわ!!」

「うん、頭にきてやる事もあるけど、怖いからやっちゃう事がほとんどだよ。アルマになんかあったら嫌だもん。怪我とかされたら困る」

 アルマが笑った。

「君に守られるほど弱かったかな。まあ、魔法に関してはね。あれは対応出来ないから!!」

「うん、僕には魔法しかないからね。そこで頑張らないで、どこで頑張るって感じだからさ」

 アルマが笑みを浮かべた。

「なんだよ、大賢者だって。なんでいわないかな!!」

「柄じゃないもの。ただ魔法やってたら、なんかが認められて、いつの間にかそうなっちゃっただけって感じだから、全く実感ないもん。便利だけど」

 アルマが笑った。

「私なんて、お金欲しくてドラゴンばっかりぶちのめしていたら、いつの間にかドラゴンスレイヤーとか呼ばれるようになっちまったぞ。そんなもんだ!!」

「そっちの方がいいな。大賢者なんてお爺さんみたいだもん」

 アルマが笑った。

「いいじゃん、なんか偉そうで!!」

「だから嫌なんだよ。欠片も偉くないから!!」

 アルマが笑みを浮かべた。

「なかなか強烈な相棒だぜ。これは、かなりムチャできるぞ!!」

「ダメだって!!」

 アルマは苦笑して右腕を出した。

「ここだけじゃないけど、食らいまくったの瞬時に直していたでしょ。ダメだって、どんどんムチャしちゃうぞ。怪我ってのは、重要なバロメーターなんだ」

「いや、痛そうだし……」

「痛いのが重要なの。これ以上は無理だなって分かるからさ。終わってから治してくれればいいぞ!!」

「……そっか」

 アルマが笑った。

「しっかし、君を肩に乗っけて走ると、なんかもうなんだって出来そうな気分になるぜ。あらゆる事をガンガンやるからさ!!」

「だって、肩に乗ってる時はアルマの武器だもん。全開で頑張るよ」

 アルマが笑った。

「本当に正直なヤツだな。どっかいっちゃうと困るから乗っけてるだけだぞ。まあ、お陰で楽な事!!」

「ならそれでいいよ。アルマが楽なら僕も楽だもん。あの勢いで突き進む気合いと根性はないからさ」

 アルマが笑った。

「そりゃ気合いと根性だけで戦ってるからね。ドラゴンなんてもう、それしかいらないから。とにかくひたすら押しまくるってね。元々向こうが圧倒的に強いから、こっちはヤケクソで突っ込むしかないもん!!」

「……よく生きてたね」

 アルマが笑みを浮かべた。

「そのドラゴンを魔法で黙らせた気合いと根性の猫だぞ。もう何だってできるぜ!!」

「あれね、結構強めの魔法なんだ。あんまりやると、環境破壊しちゃうからね」

 アルマが僕を抱きかかえた。

「なんか、お前がいい奴に見えて来たぞ。頑張り屋だし」

「いい奴かどうかは知らないけど、頑張ってはいるつもりだよ」

 そのままベッドに僕を置くと、アルマはそのまま飛び込んだ。

「さて、寝るか。暴れたからね!!」

「うん、僕も眠いよ」


「なに、具合でも悪いの?」

「うーん、なんか怠いんだよね……」

 翌朝、怠そうなアルマをみて、僕は思い至った。

「ごめん、変な意味じゃなくて上着だけ脱いでもらえる。

「馬鹿者、猫相手になにも思わん……」

 アルマの体に変な紋様が浮いていた。

「やっぱり、あのゴブリンの中に激レアがいた。呪術を扱える賢いヤツが……」

「呪術?」

 アルマが不思議そうに聞いた。

「簡単にいっちゃえば、呪いってやつだよ。効果は色々あるけど、この紋様は比較的単純で体力を急激に奪うって感じかな。単純っていっても体力をガンガン奪うから、放っておくと動けなくなるどころか命まで危ないよ」

「なんじゃい、その陰険なのは……。気合いでどうにかなる感じ?」

 アルマが聞いた。

「気合いでどうにかなったら呪いじゃないよ。とにかく、これを解かないと。呪術なんて滅多にみないから、うろ覚えの僕が弄って平気かな……」

「他にいねぇだろ。任せたぜ!!」

 僕は慎重に紋様を流れる魔力を辿った。

「……ここだな。ここに、気合いをブチ込めば!!」

「落ち着け、気合いじゃどうにもならんと、自分でいったぞ」

 僕は深呼吸をした。

「……うん、そんなに難しくもなかったよ。これ失敗すると、自分が食らうんだよね」

「おい、ムチャはやめろ。私じゃどうにもならないんだから」

 僕は笑みを浮かべ、アルマの体にそっと手を置いた。

「……肉球が気持ちいいぜ」

「……ごめん、黙ってて」

 僕は呪文を唱えた。

 バチッと音が鳴り、アルマの紋様が消えた。

「いてぇ……」

「うん、どうしても痛いんだよねぇ。電撃に似た感じだと思うけど」

 僕はホッと息を吐いた。


「あれに晒されていた時間にもよるんだけど、体力が戻るには時間が掛かるよ。無理はしないで」

「な、なんのこれしき、気合いだ!!」

 アルマはフラフラとベッドから起き上がり料理を始めた。

「……よく動けるな。どう考えても、半日はダメだけど」

 アルマはささっと食事を作り、テーブルに置いた。

「く、食えば治る……」

「……風邪じゃないんだから」

 アルマは食事を終えた。

「こ、この……」

 椅子から立ち上がった途端、床に倒れた。

「……ほら」

「ど、ど根性!!」

 まさに根性だけで立ち上がり、そのままベッドにひっくり返った。

「……うん、人間の可能性ってやつをみたかもしれないな」

 僕はベッドに乗った。

 すぐにアルマが僕を抱きかかえた。

「こ、これさえあれば、治る……」

「……それは無理」

 僕はため息を吐いた。

「じっとしててよ。怪我しちゃうよ」

「お、落ち着かないんだよ。意思通りに体が動かないってのは!!」

 僕は笑った。

「それが使い魔だよ。僕は絶対やらないって決めてるけど、こんな感じで勝手に動かされちゃうから。きっと、気持ち悪いと思うよ」

 アルマが僕を抱きかかえた。

「こ、これでいい、なんかあったら勝手に動く」

「それでいいと思うよ」

 それで落ち着いたか、アルマはゆっくり目を閉じた。

「体力ないのに無理に動くから。よけい遅くなっちゃうよ」

 僕は苦笑した。


「この野郎、治ったぞ!!」

「……急に治ったね」

 結局、夕方まで眠り続けたアルマが、いきなり復活した。

「なんだよ、妙なことしやがって。お陰で一日無駄にしちゃったじゃん!!」

「まあ、運が悪かったね。元々、あんなの成功率が低くて、ヤケクソで使うようなものだからさ」

 僕は笑った。

「全く……今からじゃアレだから、またここで一泊だよ。無駄にしたな!!」

「急ぐ事ないじゃん。休憩だと思えばいいよ」

 アルマがため息を吐いた。

「先に進みたいのが旅人だぜ。休憩こいてる暇はねぇんだよ!!」

「……落ち着いて」

 アルマは笑みを浮かべた。

「ほら、置いときゃ仕事するぜ。便利だ!!」

「うん、魔法ならね」

 アルマは僕を抱え、ベッドに飛び込んだ。

「この野郎、やっぱいい奴じゃねぇかよ。コイツがいれば十分だぜ!!」

 アルマは顔を僕に押し付けた。

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