第13話 緊急派遣
「よっと……これでよし!!」
夕闇迫る中、アルマがまた布を張って寝る支度をした。
「僕はアラームを仕掛けてくるよ」
寝場所から少し離れた場所に、円形に小さな魔法陣をいくつも描いていった。
「これねぇ、お互いが離れすぎても効果がないからねぇ」
結構な数の魔法陣を描いて作業を終えたが、まだ作動はさせていない。
一回作動させると、止めるためにはこれ自体を解除しないといけないので、また同じ作業をしないといけなくなる。
だから、本当に寝る前に作動させるのが一番良かった。
「……うん、これで大丈夫。戻ろう」
僕は寝場所に戻った。
「おう、今度は無事に帰ってきたな!!」
アルマが簡単な料理を作っていた。
「……暇だから、使い魔契約の怖い事一個教えるよ。相手の考えが読めちゃうんだ。僕はやらないけど、使い魔が主の事をボロクソに思ってると、それがハッキリ分かっちゃうんだよね。これショックらしくてさ、寝込んじゃった人もいるよ」
アルマが笑った。
「読めばいいじゃん、止めないよ!!」
「……絶対ヤダ」
アルマが笑みを浮かべた。
「遠慮すんなって、ほれ!!」
「……それが怖いから嫌。ちなみに、これ双方向。つまり、僕が思ってる事もアルマにモロバレなんだ。こんな怖い事はないよ。だから、みんなフクロウとかなんかあんま考えてなさそうなのを選ぶんだ」
「……あれ、そういう意味だったんだ」
アルマの料理が出来た。
「さっさと食べちゃおう!!」
「……うん、この匂いでももう集まってきてるよ。ここは多いね」
僕は呪文を唱えた。
無数の光の槍が放物線を描いて飛び、感じる気配が激減した。
「……うん、これ美味しいよ」
「でしょ、新作だぞ!!」
僕は呪文を唱えた。
夜空に向かって撃ち上げた光の矢が、飛んできた何かを叩き落とした。
「……いい夜だね。静かで」
「そうだね、いつもこうあって欲しいものだよ」
僕は呪文を唱えた。
当て所なく放たれた無数の光の矢が、目標を捉えた瞬間一直線に向かって突き刺さった。
「……こっちは僕の新作。適当に光の矢をばらまけば、あとは目標を勝手に選んで一直線に飛んでいくの。いちいち狙って撃たなくていいから、逃げながらとかでも撃てるんだけど、自動的にどこを狙うか分からなくてさ。まだ、改良しないとね」
「それは、近所迷惑だぞ。うっかり狙われて当たったら、痛いじゃすまないだろ!!」
アルマが笑った。
「……うん、痛いで済むほど弱くはないね。だから、まだ使えないな。魔法も結構大変なんだよ」
僕はため息を吐いた。
どうしても交代で見張りをやるといって聞かないアルマに負けて、僕は先に見張りに発っていた。
「いいんだけどな、どうせあんまり寝ないし……」
僕は呪文を唱え、探索魔法で周囲の様子を探った。
「……うん、備えあれば憂いなしってね」
遠くに見つけた魔物の集団に向かって、僕は爆発性の火球を雨のように降らせた。
「……ん、なにか大きな鳥でもきたかな。夜なのに」
何度か見た大きなヤツではなかった。
よく分からなかったので、僕は警告で赤色の光球を打ち上げた。
近寄るなという意味だけど、お構いなしに接近してきたので敵と判断した。
「……警告はしたぞ」
僕は杖を片手に印を切り、巨大な火柱のような物を撃ち出した。
夜空に消えていった火柱に気がついたか、鳥のようなものが急激に進路を変えた。
「……逃げてるつもり?」
その動きに合わせて向きを変えた火柱が、高速で飛ぶ鳥のようなものを追った。
「……何度もいうけど、警告はしたからね」
逃げ回る大きな鳥を火柱が直撃した。
夜空に花火のように爆光が散り、鳥のようなものは地に落ちた。
「……なんだろう。普通の鳥だったら粉々だしな。まあ、いっか」
一回地面に落ちていた鳥のようなものが、再び空に舞い上がった。
「……なかなか気合い入ってるな」
僕は呪文を唱え、今度は火柱を五本撃ち出した。
「……逃げられるかな」
逃げ回る鳥のようなものに、五本の火柱が殺到した。
次々に命中し、爆音をまき散らして鳥のようなものは再び地面に落ちた。
「……今度はどうかな」
鳥のようなものが起き上がり、今度は地面を走ってきた。
「……そうきたか」
僕は呪文を唱え、無数の光の矢を一斉に放った。
地面を走っていた大きな鳥のようなものがまともにそれを食らい、バッタリ倒れて動かなくなった。
「……あれ、やりすぎたかな。ごめんね」
「なに暴れてるの?」
さすがにアルマが起き出してきた。
「……うん、なんか鳥みたいな変なのがきたから迎撃しただけだよ。なかなか、気合い入ったヤツでさ、最後は地面を走ってきたからトドメさしちゃった」
アルマは笑った。
「どっちも気合い十分だ。さすがに見にいった方がいいと思うよ。絶対、鳥じゃないから」
「……うん、でもアラーム鳴っちゃうよ。解除するね」
僕はアラームを解除した。
「……よし、いこう」
僕は魔法で明かりを作り、アルマと一緒に草原を走った。
背中に翼を生やした人間のような人が、真っ黒焦げでピクピクしていた。
「……あっ、ドラゴニルのお姉さんだった」
「ドラゴニル?」
アルマが聞いた。
「うん、よく分からないけど、ドラゴンの血をちょっとだけ持ってる人間だったかな。たまに見かけるんだ。マズいな、魔物だと思って容赦なく撃墜しちゃったよ……」
「なに、そんな種族がいたの。知らなかったぜ!!」
アルマが黒焦げさんの様子を確認した。
「……生きてはいるぞ。あとは任せた」
「……うん、謝らないと」
僕は慌てて回復魔法を使った。
黒焦げだった体は綺麗に治り、閉じていた目がゆっくり開いた。
「……ご、ごめんなさい」
僕は素直に謝った。
「……い、いえ、警告を無視しましたので。急ぎの用事があったのです」
ドラゴニルのお姉さんは立ち上がった。
「急ぎの用事?」
アルマが聞いた。
「はい、私たちは小さな谷に集落を作って住んでいるのですが、近くにオークの巣がありまして、なぜか異常繁殖してしまったのです。これは国にとっても問題なので、至急国王様にご報告をと急いでいました。国軍を派遣して頂いて、ぶちのめして頂かないと集落が危険なのです」
「……要するに、ぶちのめせばいいみたい」
「オークねぇ、なかなかしぶといんだよなぁ」
アルマが頭を掻いた。
「みた事ないな。どんなの?」
「はい、人形の魔物ですが、簡単な武器も使えますし、数が多いので厄介なのです」
「うん、鬼ともいうんだけどね。とにかく、気合い入ってるからなかなか大変でさ。一番受けたくない依頼だね。報酬はいいんだけど」
アルマが笑みを浮かべT。
「……その谷ってどこなの。ドラゴニル自体、滅多に会えないからさ」
「はい、地図」
アルマが地図を差し出した。
「えっと……ここですね。歩きだと一週間は掛かるかと」
「……うん、遠いね。でも、王都からなんていったら、一ッヶ月どころじゃないでしょ。これは、僕たちがやるしかないよ」
「急げばもっと早くいけるだろ。すぐ出発だ!!」
「えっ、ぶちのめして頂けるのですか?」
ドラゴニラムのお姉さんが聞いた。
「……うん、聞いちゃったからね。やるしかないでしょ」
「そういういうこと。報酬はもらうぞ!!」
アルマが笑みを浮かべた。
「では、抱えて運びます。出発準備を」
「……パワフルみたいよ」
「か、抱えて!?」
ドラゴニラムのお姉さんは力拳を作った。
「……うお!?」
「……半端ねぇぞ」
「とにかく、急ぎましょう!!」
「……わ、分かった!!」
「ちょっと待ってろ、二分で撤収する!!」
アルマはあっという間に寝場所を片付けた。
「いいぞ!!」
「では、いきます!!」
ドラゴニラムのお姉さんは、余裕で僕たちを両脇に抱え、一気に空に舞い上がった。
「……と、飛んだの初めて!!」
もの凄い速度で飛ぶドラゴニラムのお姉さんに抱えられていると、進む先に小さな村のようなものが見えてきた。
「ん?」
その村の周りに、何かがウヨウヨいるのが分かった。
ドラゴニラムのお姉さんが止まった。
「まずいです。集落が襲われています。戦える者などほとんどいないのに……」
「……あのウヨウヨいる集団を上をゆっくり回りながら飛んで、僕がひたすら撃つから」「分かりました」
お姉さんはなんだかウヨウヨいるヤツの上を飛んだ。
「……狙いなんかどうでもいいな。とにかく撃てばいいや」
僕は呪文を連発し、思い付いた攻撃魔法をひたすら乱射した。
なにしろ密集して数が多いので、撃てば当たる状態だった。
お姉さんがゆっくり集団の上を回って飛ぶ中。僕はとにかくひたすら撃ちまくった。
「おいおい、気合い入れすぎてぶっ壊れたか?」
アルマの声が聞こえた。
あらゆる攻撃魔法が降り注ぐ中、ウヨウヨいたヤツの数は急速に減っていった。
「……ん、ねえ、噂の巣ってあの洞窟みたいなヤツ」
僕が気がついて問いかけると。お姉さんは頷いた。
「……山の形が変わっちゃっていい?」
「こ、こら、落ち着け!!」
アルマが慌てて叫んだ。
「……構いません。あれがなくなるなら!!」
「おい、滅多な事いうな!?」
僕は頷いた。
長い呪文を唱え、突き出した両腕の先から太陽みたいなサイズの放電伴った光球が放たれた。
巨大な見た目とは裏腹に、猛烈な速度で洞窟に吸い込まれた光球は、内部で高エネルギーを放って大爆発を起こした。
山全体が吹っ飛び、原形を留めないほど色々吹っ飛んだ。
「……な、なに、なんかブチキレちゃったの?」
アルマが恐る恐る聞いてきた。
「……集落をみてよ。ほとんど壊滅だと思うよ。こういうの、絶対許せないんだよね。山なんか知った事じゃないよ。邪魔くさい」
「……う、うわ、本気で怒っちゃったよ」
お姉さんがため息を吐いた。
「とにかく、残ったオークを叩いてからです」
アルマが笑みを浮かべた。
「私は遊覧飛行にきたんじゃないぞ。そろそろ、地上に下ろしてよ」
「この数ですよ。危険です!!」
アルマが笑った。
「危険を承知できてるの。とっとと下ろせ!!」
お姉さんは地上に下りて、アルマを離した。
「よし、仕事開始だぜ。君も駆け回ろうぜ。なんか、上から楽しい事やっちゃってさ!!」
「……うん、なんかそんな気分かな」
僕は笑みを浮かべた。
「よし、武装しなきゃな!!」
アルマは僕を肩に乗せた。
「いくぜ!!」
「……おうよ」
僕たちはオークの群れに突っ込んだ。
「一体一体は頑丈だけど、それだけだから!!」
「……要するに、僕は最大火力で暴れると」
オークの群れの中を駆け回り、アルマの剣と僕の攻撃魔法が次々に倒していった。
「どうだ、相棒!!」
「……問題ないよ。ガンガンいこう」
とにかくひたすらアルマは駆け回り、朝を迎える頃には、倒したオークの姿しかなかった。
「ったく、増えちゃうと面倒なのよね。馬鹿野郎らしく、数で押してくるからさ」
「……僕も馬鹿野郎だったね。師匠が知ったら、エラい騒ぎになるよ。山が一つなくなったもん」
アルマが笑った。
「君だけは怒らせないようにするよ。なにこれ、半端ないって!!」
「……こんなもんじゃないぞ。まだ隠してるから
僕は笑みを浮かべた。
「あ、あの……集落の片付けをお願いしたいのですが。私の親も含まれるのでとても……」
お姉さんはため息を吐いた。
「……そっか、分かった。ここに全自動弔い装置があるから、任せて」
「……ぼ、僕そういう装置なの?」
アルマが睨んだ。
「うるせぇ、黙って働け!!」
「……了解」
僕たちは集落に入った。
「……予想はしてたけどね」
「……ある意味、猫は見慣れてるけど、人間サイズはね」
なにはともあれ、破壊された集落の瓦礫を片付けるのにも、僕の魔法は役に立った。
「こりゃ手放せん。なんでも出来るぞ」
「魔法使いなんてこんなもんだよ」
犠牲者の数は、十や二十ではなかった。
「……子供までいやがるな。生存者はたったの十五名か」
アルマはため息を吐いた。
広場のような所に犠牲者の体を集め、僕とアルマは軽く目を閉じた。
「よし、埋葬までノンストップだ。一気に片付けよう!!」
「……だね。みてらんないないよ」
僕は杖を片手に憑霊防止措置を行った。
「……火力が分からない。爆発しない程度に」
僕は一気に火葬し、集落の隅にあった墓地に纏めて埋葬した。
「……誰が誰だか分からない状態だからね。こうするしかない」
「上出来だよ。あの姉ちゃんどこいったかな?」
「……今はそのままで。墓地にいるよ」
アルマが笑みを浮かべた。
「なに、気が利くじゃん」
「……当たり前でしょ。なんだと思ってるの」
アルマが僕を抱きかかえた。
「荒れるな、やる事はやったぞ」
「……うん、ごめん」
アルマが笑った。
「山一個ぶっ飛ばすほどだもんな。私も頭にくるけど、ここまでじゃないな」
アルマが僕を撫でた。
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