第12話 武器を買おう
「うーん、ここの魔物の体液って酸性なのかなんなのか……すぐ刃がダメになるな」
歩きながら、アルマが剣を抜いてぼやいた。
「……マズい?」
僕が聞くと、アルマが頷いた。
「うん、これじゃただの変な棍棒だよ。無理矢理叩き斬ってるけど、これじゃダメだね。どっかで、まともなの調達しないと。それも、早急に」
「……それなら、世界的に有名な武器職人のオッサンがいるよ。僕でも知ってるくらいに。個人的にはあまり行きたくないけど、そういう事情なら仕方ないね。ちょうどこの近く……って程近くはないけど、山登りだね。変な所に工房があるから」
アルマは笑みを浮かべた。
「そういう変なの好きだぜ。これじゃしょうがないし、いこうぜ!!」
道を進んでしばらくして見えてきた分岐点を右に曲がった。
「あとは真っ直ぐだよ。山の魔物はなかなか強いから気を付けて」
「あいよ、まだ使えるからね。最後に仕事させてやろう!!」
道を進んでいくと。登山道の入り口に辿り付いた。
「ここからが山だね。けっこう、キツい道だからね」
「望むところだ。いくぞ」
僕とアルマは登山道を登り始めた。
しばらく進むと、さっそく魔物が現れた。
僕たちに向かって、間髪入れず飛びかかって来た。
「……間に合わない」
僕は防御魔法を諦めて、出来るだけ背後に跳んで魔物の爪を避けた。
完全には避けきれず、体の正面を引っかかれた。
アルマはさすがというか、剣で完全に防いでいた。
「おい、大丈夫か!?」
「……痛いだけだよ。問題ない」
一旦引いた魔物に向かって、僕は爆発性の火球を放った。
魔物の表面で爆発が起きたが、大して効いた様子はなかった。
「……マズい、今分かった。ウォードッグだ。魔法なんて効かないぞ」
「なに、強いの?」
アルマの問いに僕は頷いた。
「被毛が柔軟で強固だからなかなか武器は通さないし、そもそもが魔法防御力が高くて魔法の効きも悪い。山で一番嫌なのが、いきなり出た。しかも、コイツら仲間を呼ぶんだ。早くしないと」
「そりゃいい度胸してるね。試してやろうじゃないの!!」
アルマは笑みを浮かべ、素早く一体に斬り込んだ。
重たい音が聞こえ。アルマが戻って切った。
「確かに効かないね。こんなボロい剣じゃ話にならないな。今こそ気合いで魔法だぞ!!」
アルマが笑った。
「……よく笑えるな。これに効く魔法っていったら、これか
僕は呪文を唱えた。
両手に光輝く剣が現れ、僕はそっと構えた。
「……おい、それでやっちまうタイプなのか?」
「……うん、人並みには戦えるはずだよ。怖いから滅多にやらないってか、あくまでも人並み以下だから!!」
僕は光の剣を片手に一体に向かって斬り込んだ。
振り下ろしした剣を受け止めた魔物の手が真っ二つになり、頭に叩き込まれた光の刃がやはり頭を真っ二つにした。
「……この野郎」
あとは剣を滅多やたら振り回し、結果として魔物の体が細切れになった。
「……ほら、下手くそでしょ?」
「それ以前だ、ただ振り回しただけだろ!!」
僕は一度魔物と距離を開けた。
「……その剣を寄越せ。みててイライラする」
「……これ自分用なんだよ。イライラするならやめよう」
僕は剣を消した。
「……これならなんだって斬れるんだけど、肝心の腕がボロいどころじゃ」
「あとで教えてやる。もったいねぇよ!!」
などとやっていたら、残っていた一体が遠吠えをした。
「……しまった、呼ばれた」
「なに、団体さんでもくるの。じゃあ、このボロい剣じゃしょうがないから、取っておき出しちゃうか!!」
アルマは今までの剣を捨て。背中に背負っていた剣を腰に帯びた。
「……な、なんか、すごい。神々しい光まで放ってるよ!?」
「うん、聞いたことあるか分からないけど、聖剣なんて呼ばれるね。銘はエクスカリバー。これだって、何だって斬れるぞ。目立つから普段は使わないけど!!」
アルマは剣を抜いた。
刀身が微かな光を帯び、これだけでもうただの剣ではなかった。
その間に魔物の数が六体に増えた。
「……チョロいぜ」
アルマがその場で剣を横薙ぎに振った瞬間。剣から青白い気持ち悪いものが放たれ、固まっていた魔物の体を真っ二つにした。
「……な、なに、今の?」
「まあ、気合いって事にしておいて。この剣はとにかく特殊でさ、普段使いするには厳しいから普通の剣を使ってるんだ。それに、これじゃ面白くない!!」
アルマは剣を鞘に収めた。
「……か、格好いいけど、めっちゃ怖い剣だね」
「当たり前だろ、武器ってのは怖いもんだ。まあ、これは極めつけだけど!!」
アルマが笑い、僕たちは再び山を登り始めた。
「どりゃあ!!」
茂みから魔物が出てきた早々、ちゃんと姿も確認しないうちに、アルマの剣から放たれた気持ち悪いもので、あっけなく戦いは終わった。
「……下手な魔法より凄いぞ!?」
「だてに聖剣なんて呼ばれねぇぜ!!」
アルマはニヤッとした。
「ただなんかぶった切るにはいいんだけどね、この調子だから全然面白くないんだよね。目立ってしょうがないし、まず使う事はないんだけどさ。だから、早くまともな剣がほしいんだ!!」
「……それ以上のまともな剣なんてあるの!?」
アルマは笑った。
「これになったらダメなんだって。こんなの剣じゃない!!」
「……今、なんか微妙に怒られそうな気がしたけど、気のせい?」
僕たちは山を登り、大きな小屋のような工房に到着した。
「……ああ、きちゃった」
「なに、なんか嫌なの?」
僕は頷いた。
「……お父さんなんだ、実は」
「なに!?」
小屋の扉が開いて、お父さんが出てきた。
「おう、坊主。久々じゃぇねぇか。なんだ、こっちの面白そうなのは?」
お父さんは笑みを浮かべ、アルマをみた。
「……うん、使い魔の契約しちゃった」
お父さんが思いきりゲンコツを落としてきた。
「馬鹿野郎、お前これは明らかに人間だぞ。俺たちはその膝の上かなんかで、目を細めてゴロゴロいってるのが正しく生きる道なんだよ。それをお前、使い魔になんかしたら、どこでゴロゴロいうんだよ。なんかもう、申し訳が立たねぇだろ!!」
「……ごめんなさい」
「ああ、怒らないで。嫌でもなんでもないから。どこでもゴロゴロいっていいし!?」
アルマが慌てて声を上げた。
「いや、すまねぇな。せっかくの、ゴロゴロタイムをよ……まあいい、ここにきたって事は武器だろ。コイツが大迷惑をかけちまったからな、せめて最高の武器でお詫びさせてくれ。どいうのがいいんだ?」
「アルマは腰の剣を鞘ごと外した」
お父さんは笑みを浮かべた。
「エクスカリバーか。ずっとみてみたかったんだ、武器職人なら当たり前だがな。ってことは、剣が欲しいんだな。そいつを使わなくてもいいような野郎をよ!!」
「そういうこと。ここの魔物はどうも体液が特殊っていうか、すぐにダメになっちゃうからさ」
お父さんは頷いた。
「まあ、特殊っていえば特殊な成分が含まれてるからな。よそからきたんだろ。普通の鋳鉄や真鍮なんかじゃすぐダメになっちまう。ちと話を聞かせろ、望み通りのものを作ってやる」
「へぇ、私の注文はうるさいよ。どうも、使い捨てにしていい剣じゃなさそうだからね」
お父さんが笑みを浮かべた。
「なんだ、お前。そんな可哀想な事をしてたのかよ。ったく、いい物作ってやるから大事にしてやれ!!」
お父さんとアルマが話を始めた。
「……良かった、この時点で嫌われると絶対やってくれないから」
僕はホッとため息を吐いた。
「おい、坊主。茶の一つもいれられねぇのかよ。それと、その腰のナイフ。まともなものにしてやるよ。いい加減過ぎて、みててイライラしてくるぜ!!」
「……わ、分かった、とにかくお茶!?」
「い、いいから!?」
お父さんがアルマをみた。
「人間用なんてまず作らねぇし、ハッキリって時間が掛かる。悪いが待っていてくれ。それに見合ったものは作るからよ!!」
「うん、じっくりやってよ!!」
お父さんは笑みを浮かべ、工房に入っていった。
「……粗茶ですが」
僕はアルマに茶碗を差し出した。
「やめろ!!」
アルマは茶碗を受け取り、豪快に飲んだ。
「……あれ、美味いぞ」
「……うん、お父さんの好みでどっかの高級茶だよ。それも、お客さん用の最高級。間違えるとぶん殴られるからさ」
アルマが笑みを浮かべた。
「こら、使い魔にそんなもん出すな。柄じゃないだろ!!」
「……これやらないと、ぶん殴られるから」
アルマが笑った。
「きたくない理由ってこれ?」
「……うん、とにかく厳しいからさ。職人っぽいけど」
アルマがエクスカリバーを構えた。
「さっきのヘタレな剣を直してやる!!」
「……そ、その剣はやめて!?」
アルマが剣を振った。
気持ち悪い何かが僕を掠め、背後にあった岩を砕いた。
「……真面目にやらないと、体がああなっちゃうよ?」
「……」
僕は慌てて呪文を唱えた。
光の剣を手に、僕は構えた。
「なっとらん、そこからだ!!」
アルマが笑みを浮かべた。
「おう、ちょっとはよくなったな。まだ実戦で使えるレベルじゃないけどね!!」
「……つ、疲れた」
ひたすらアルマと剣を打ち合わせ、僕は地面にひっくり返った。
「なんだよ、そんな体力じゃ戦えないぞ!!」
「……自分、魔法使いなので」
僕はなんとか立ち上がった。
「そうだ、根性だ。かかってこい!!」
「……こ、この!!」
僕は光の剣を手にいっきに間合いを詰めた。
振り下ろした剣はあっさりアルマに防がれたが、返す刀で隙だらけの体を目がけて振り下ろした。
アルマが笑みを浮かべ、僕を盛大に蹴り飛ばした。
「あんな簡単な誘いに乗るなよ。正直なヤツだな。まあ、良くなったぞ。遊ぶには問題ないだろ!!」
「……あ、遊ぶ」
アルマは僕を抱え上げた。
「どうだ、これが剣の戦いだ。体全部使うんだぞ。斬ればいいってもんじゃないんだな」
「……まさか、蹴られるとは思わなかったよ」
アルマが笑った。
「剣は誘う道具。端から蹴飛ばすつもりだったから。斬っちゃったらまずいでしょ?」
「……へぇ」
なんてやってたら、父さんが出てきた。
「おう、注文通りのヤツ作ったら俺には重くてよ。屋根をぶっ壊していいから取ってくれ!!」
「ぶ、ぶっ壊す!?」
アルマの声にお父さんが笑み浮かべた。
「最初からそのつもりだ。出せるわけねぇだろ、こんな狭い出口からよ!!」
僕はそっと呪文を唱えた。
瞬間、小屋が全部ぶっ飛んだ。
「な、なんだ、怪奇現象か!?」
「……こら、暴れるな」
「……加減間違えちゃった」
アルマがため息を吐き、小屋の跡地にあった剣を取った。
「へぇ、なんかみたことない材質だね」
「おう、それがここでの標準的な材質だ。あえて、妙なものは使ってねぇぞ。そういうのが好みだろ?」
アルマが笑みを浮かべた、
「分かってるじゃない。そういうのが欲しいんだよ!!」
「あと、予備も三本作っといたからな。刃こぼれでもしたら持ってこい。捨てるんじゃねぞ!!」
アルマは剣を見つめた。
「こんな職人魂満載の剣を、使い捨てに出来るわけないでしょ。なかなかいい作りじゃないの」
「おう、あとこれは坊主のナイフだ。加減を間違えて、ダガーにしちまったがな。しかも、マインゴーシュだぜ。上手く使って、相手の剣をバキバキへし折ってやれ!!」
「……ぼ、僕、魔法使いだよ。変にやったら、バキバキへし折れちゃうのは僕の骨だよ!?」
アルマが笑った。
「これね、使い方が本当に難しいんだよ。防御重視の短剣なんだけどさ。使わないなら貸してよ。一回、バキバキへし折ってみたかったんだ。どんな顔するのかなって!!」
僕はアルマにそれを手渡した。
「楽しみが増えたな。そのナイフでいいの?」
「うん、ちょっと切るだけだし、滅多に使えるタイミングなんてないからさ。これで十分だよ」
僕は笑みを浮かべた。
「おう、気を付けていけよ。この辺は魔物が多いからな!!」
「またくるぜ!!」
僕たちは山の下りに入った。
「……おかしいな。魔物の気配が全くないぞ」
「……くるぞ。あいつだ」
アルマが見覚えのあるドラゴンスレイヤーを抜いた。
「……まだ時間ある?」
「……上空から接近中だな。まだ遠い」
僕は頷き、ナイフを手に取った。
特殊なチョークで手早く地面に魔法陣を描き、長い呪文の詠唱に入った。
光輝いた魔法陣の上で僕は自分の左手の平を切って、血を一滴垂らした。
魔法陣が光輝いて弾け、空間に開いた黒い穴から巨大な生物が出現した。
「な、なんだ!?」
アルマが声を上げた。
「これが召喚魔法だよ。覚えるのが大変なんだ。あの大きなヤツがくるなら、同じようなやつと思って。バハムートっていうんだけどね」
僕は笑みを浮かべた。
「馬鹿者、こんなデカいの片付けなさい。目の前が完全に塞がれて邪魔!!」
「……うん、これに相手させよう」
そこに、上空から大きなヤツが舞い降りてきた。
間髪入れず下りてきた大きなヤツが吐き出した炎を、バハムートは指一本で弾いて跳ね返した。
「……な、なに、この異様な強さ!?」
「……うん、バハムートってこんな姿だけど、実際は神様みたなものだからね。こんなの相手にもならないんじゃない?」
僕は会心の笑みを浮かべた。
「馬鹿者、なにを呼んじゃってるの!?」
「大丈夫、魔法が効いてる間は僕が制御してるから暴れないよ。どうしようかな」
バハムートが、大きなヤツをぶん殴った。
頭に来たのか、大きなヤツも殴り返した。
バハムートは笑みを浮かべ、もう一度ぶん殴った。
「……おい、笑ったぞ?」
「……うん、なんか可愛くなっちゃったとか?」
いい加減我慢出来なくなったか、大きなヤツが派手に炎を吐き出した。
バハムートはそれを気合いで跳ね返し、逆に大きなヤツが炎に包まれた。
「……き、気合いって」
「……うん、なんでも気合いだよ」
炎に包まれがら、大きなヤツは根性で炎を吐き出し続けた。
その全てがバハムートの指先だけで弾かれた。
これにはビビったらしく、大きなヤツは一目散に逃げ出した。
大きなヤツが上空に上がってしばらくして、バハムートが巨大な口を開いた。
目映い光が口に収束し、一本の柱のようになって発射された。
上空にいた大きなヤツは一瞬で蒸発し、上空には派手な閃光の嵐が巻き起こった。
それに満足したように頷き、バハムートはすっと消えていった。
「……うわ、遊んだ上に消したぞ!?」
「……うん、バハムートへのお願いは、あの大きなヤツを倒してだったからね。但し、手段は問わず」
僕は笑みを浮かべた。
「せ、せめて、一撃で楽にしてあげなさい!!」
「……うん、滅多に使わないから、どんな能力があるか分からなかったから、こうしてっていえなかったんだよね」
アルマはため息を吐いた。
「そういう変なのは使わない!!」
「……うん、そうする」
アルマが僕だきかかえた。
「全く、放っておくとなにするか分からないんだから!!」
「……うん、せっかくだからって」
結局、魔物に遭遇する事なく、僕たちは山を下りた。
「よし、まともな武器も手に入ったし、先に進むぞ。もう夕方近いから、野宿する場所を探さないとね」
道を歩きながらアルマがいった。
「……そうだね。だんだん、これが楽しくなってきたよ」
僕は笑みを浮かべた。
「だろ、これがいいんだよ。勝手気ままってのがさ。癖になると抜けないぞ!!」
アルマが笑みを浮かべた。
「……うん、もう抜けないかもね。村なんかにいられないよ」
僕は笑った。
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