第10話 しぶといアイツ

「……それにしても、その剣凄いね。分からない僕でもそう思うよ」

 洞窟の出口に向かう最中、僕はアルマにいった。

「ああ、これ。さっきのデカブツを倒すために作られた剣でね、あの分厚い鱗と皮膚を叩き斬るために特殊な金属で出来ているんだ。ドラゴンに捨てる所なしっていって、とにかく倒すとお金になるから、これでぶちのめして回収専門の業者に報告するだけで結構稼げるんだよね。それを、旅費に充ててたってわけ。いっておくけど、あんなボロいやられ方したことないぞ。鈍ってるねぇ」

 アルマが苦笑した。

「……へぇ、そんな稼ぎ方もあるんだね。確かに、あの子は強かったな」

「うん、地上最強の生物っていわれてるよ。それを、一人でボコボコにしてぶちのめしたんだもん。大したもんだ!!」

 洞窟から出ると、出てきていた村の人たちが心配そうに見ていた。

「おう、ぶちのめしたぞ。もう、問題ない!!」

 村の人たちが目を丸くした。

「なんならみてこい。もう、なにもいないぞ!!」

 村の人たちが洞窟に入っていった。

「あのドラゴンみてなんていうかな」

 アルマが笑った。

 しばらくして、血相を変えてすっ飛んできた村の人の一人が怒鳴った。

「ま、まだ生きてる。あの何だかよく分からないデカいの。三人やられた!!」

 瞬間、アルマの目つきが冷たいものになった。

「……いくよ。きっちりケリつけよう」

「……こ、怖いよ。アルマの方が!?」

 アルマに抱きかかえられ、僕は洞窟の奥に戻った。

「なるほど、さすがエンシェント・ドラゴンってところだね。生命力が半端じゃない」

 さっき粉々になった大きいヤツが、再び四本の足で地面を踏み、挑みかかってる村の人を尻尾で根こそぎなぎ払った。

「……この野郎」

 鋭い視線で大きいヤツを睨み付けたアルマは、剣を手に素早く巨体に接近していった。

「……邪魔しない方がいいな」

 僕はあえてなにもしないで、アルマの行方だけを追っていた。

 アルマは先ず四本足の一本の根本に剣を叩き付けた。

 嘘みたいにあっさり足は切断され、体が傾いた所に剣を深々と突き立て、一気に引いた。

「……すげ」

 やっぱり痛かったのか、大きなヤツが暴れ始めた。

 こうなるとアルマもなかなか接近出来ないようで、少し距離を開けて様子をみていた。

「……よし、出番だぞ」

 僕は杖を構え印を切った。

「……粉々でダメなら、凍結させてやる」

 杖から魔力が放たれ、暴れてる大きなヤツの体内が凍り付いた……はずだった。

「……あれ、効いてないな」

「今のは分かった。ドラゴンの体内はとんでもなく高温なんだ。生半可じゃ効かないぞ!!」

 アルマが叫んだ。

「……そうなんだ。高温のヤツを凍結させるのは効率が悪いな。生き物だよね、ああ見えても。ならば、神経系統はあるはずだし、これならどうだ」

 僕は印を切り最大級の電撃の魔法を、大きいヤツの体内で発生させた。

 焦げ臭い臭いとともに、大きなヤツの動きが止まった。

「……凄いね。普通なら感電死だぞ」

「よし、いい仕事したぞ。これならいける!!」

 アルマは動きが止まった大きなヤツに駆け寄り、あとは好き放題滅多斬りにした。

「こんなもんじゃダメなんだ。この野郎!!」

 そのうち、大きなヤツが動いた。

「……嘘でしょ。どんだけ頑丈なんだ」

 アルマが距離を開けた。

「くるぞ、防御!!」

 僕は反射的に防御魔法を使った。

 大きなヤツがとんでもない熱量の炎を吐き出した。

「……な、なに、これ?」

 炎が収まり、アルマと大きなヤツの睨み合いが続いた。

「……よし、あれいこう。あんまり好きじゃないけど。こんな頑丈なら」

 僕は印を切って呪文を唱えた。

 青白い光球が杖から撃ち出され。大きなヤツの顔面を直撃した。

「こら、攻撃魔法なんか効かないって!!」

「……これなら効くよ。生き物だから

 大きなヤツの体がボロボロに崩壊を始めた。

「な、なにやったの!?」

「回復魔法で攻撃したんだ。あれは自己治癒能力を加速させる魔法だから、それを逆転させて使ったんだ。これだけ生命力が高かったら、効き目は抜群だよ。すごく悲しくなる魔法なんだけどね」

 僕は俯いた。

「おいおい、アイツは自分で倒されちゃったのかよ。すげぇことしやがるな!!」

 アルマが笑みを浮かべた。

「……人を助ける魔法で傷つけちゃうんだよ。魔法使いとして、これどうかなって使う度に思っちゃうんだけどね。あんなの他に倒し方が分からなかったんだ」

「いいじゃん、魔法も剣も使い方次第だぞ。散々困らせた上に、私の目の前で根こそぎやりやがった馬鹿野郎をぶちのめしたんだからさ」

 アルマが笑みを浮かべた。

「このパターンが一番ムカつくんだよね。誰の目の前でやらかしてくれるんだってね!!」「……そうか、僕と同じだね」

 僕は笑みを浮かべた。

「だろ、頭来るだろ。まあ、いいや。今度こそ大丈夫だろ。帰ろう!!」

 アルマに抱えられて洞窟を出ると、連絡がいっていたのか村から馬車が来ていた。

「こりゃ気が利くね!!」

 僕たちが馬車に乗ると、ゆっくりと村に向けて走り始めた。

「ん?」

 何となく気配を感じ、僕は馬車の周囲をみた。

「あーあ、洞窟から出ちゃってたヤツか。よし、こうなったら殲滅してやろうぜ!!」

 アルマが馬車を動かしていた人に声を掛けた。

 馬車の速度が上がり、接近いていた魔物の進路に回り込んだ。

「……発射」

 僕は爆発性の火球を放った。

 接近していた魔物が砕け散り、馬車は何事もなかったかのように駆け抜けた。

「その調子だ。ガンガン撃て!!」

「……了解」

 僕は出遭う魔物という魔物に火球を撃ち込み、粉々に粉砕しながら馬車はひたすら走り続けた。

「なんか、これいいな!!」

「……うん、なにか楽しい」

 僕は笑みを浮かべた。

 馬車はひたすら走り、僕はひたすら撃ち続け、夕方になる頃にはなにもいなくなっていた。

「目標殲滅。帰るぞ!!」

「……おう」

 馬車は進路を変え、村に向かって勢いよく走っていった。

「こ、こら、変なところで燃えるな!?」

「……あーあ、こっちまで熱くなっちゃったね」

 勢いよく走り続けT馬車は、村の門に体当たりして破壊し、そのまま村長の家に向かって爆走した。

「お、おい、落ち着け!?」

「……発射」

 僕は爆発性の火球を、前方にむかって高速発射した。

 固く閉ざされた村長の家の門が粉々に吹き飛び、直後に馬車が駆け込んだ。

「……」

「……うん、あのまま当たったら怪我じゃ済まなかったから。怒られるね」

 馬車は村長の家に突っ込んで止まった。

「ば、馬鹿たれ、なにやってる!?」

「……こういうの嫌いじゃないよ」

 僕は小さな笑みを浮かべた。

「……意外と、暴れん坊だねぇ」

「……いや、こういうノリが好きなだけだよ。楽しいもん」

 ビックリして村長が飛び出てきた。

「な、何事?」

「う、うん、馬車の運ちゃんがなんか燃えちゃったみたいで!!」

 アルマが僕を抱えて馬車から降りた。

「おう、約束通りぶっ潰してきたぞ!!」

「ほ、ホント!?」

 村長が腰を抜かした。

「うん、犠牲者は出しちゃったけどね……」

 アルマが目を伏せた。

「いや、覚悟の上じゃ。無事で何よりだった。大仕事だったであろう。僅かながらだが、謝礼を用意させてもらった。受け取って欲しい」

 村長は大きな革袋をアルマに手渡した。

「……うわ、一年は遊んで暮らせるんじゃない。大金だよ」

「当たり前だろ、あんなもん倒したんだから。これが、正当な報酬ってヤツだ!!」

 アルマは笑みを浮かべた。

「こうやって、行く先々で路銀を稼いでいくのさ。なかなか楽しいぞ!!」

「……うん、面白いね」

 僕は笑みを浮かべた。

「だんだん、その顔するようになってきたな。いいことだぞ。よし、まずはあの家に帰ろう!!」

「……うん、魔力使い過ぎでちょっと疲れたよ」

 僕はアルマに抱きかかえられ、村の破壊された門に向かって。

「……これ、どうするんだろうね」

 僕は笑みを浮かべ、呪文を唱えた。

 一瞬で門が元通りになった。

「……魔法っぽい」

「……うん、魔法だよ。便利」

 僕は笑った。

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