第9話 洞窟の大掃除

「……減らしたはずなんだけどな。感覚が麻痺しそうだよ」

「同じく。これは楽しめるぞ!!」

 アルマが剣を構えると同時に、飛行系というそのままの空を飛んでくる魔物の集団が押し寄せてきた。

「剣じゃ分が悪い!!」

「分かってるよ」

 僕は印を省略して、速射状態で魔法を連射した。

 杖の魔力増幅効果によって威力が跳ね上がった光の矢の群れが、魔物の群れに襲いかかった。

「……まだか」

 僕は高速詠唱で再び光の矢を無数に生みだし、その全てを叩き落とした。

「よし、よくやった。いくぞ!!」

「……痛そう。ごめんね」

 地面にゴロゴロしている魔物に謝り、アルマの後について洞窟を進んだ。

「……そこの曲がり角の先。今度は地面を匍ってるヤツ。数は二体」

「了解。待ってりゃくるよ。一体は任せた!!」

 僕は杖を構え、角から頭を出した瞬間を狙って、派手な爆発を起こす火球を撃ち込んだ。

 出会い頭に一撃を食らって怯んだ隙に、僕は突き出した両手から光の帯を発射した。

 頭だけ出ていた魔物が黒焦げになったが、それでも角から出てきて突っ込んできた。

「……うん、かなりタフだね」

 僕は印を切り、炎の矢を放った。

 魔物はあっさりそれを飛んで避け、僕の前に着地した。

「……甘いよ」

 僕が笑みを浮かべると同時に、さっき避けられた炎の矢が魔物のお尻に突き刺さり、大爆発を起こした。

「……僕を本気にさせた君が悪いよ。でも、ごめんね」

 体が半分吹き飛んだ魔物は、そのまま床に倒れた。

「……さて、アルマだ」

 もう一体と剣でやり合っているアルマを目で追った。

「……拮抗してるね。一押ししよう」

 僕は印を切り、魔物のお腹目がけて特大の氷の矢を放った。

 矢は魔物のお腹に突き刺さり、そのまま体を凍結させた。

 アルマが剣で思い切り叩き、魔物は粉々に砕けた。

「こら、私の獲物に手を出すな!!」

「……ちょっとやりすぎたね。ごめんなさい」

 アルマが笑った。

「何だお前、結構極悪じゃないの。面白いぞ!!」

「……だって、やらないとアルマが死んじゃうもん」

 アルマが笑った。

「お前に心配されるほど弱くはない。いくぞ!!」

「……よし」

 僕は杖を構え、笑みを浮かべた。

「なんだ、おい。ついにやる気になっちゃった。いいぞ、ガンガンやれ!!」

「……うん、こんな機会ないからね」

 僕たちはさらに進んだ。

「……ついに、魔物勢揃いだよ。匍ってるの六体。飛んでるの二十三体。匍ってるのを牽制してて、絶対に突っ込んじゃダメだよ。まずは、邪魔な飛んでるのを叩き落とす」

「了解、ノッてきたよ!!」

 アルマが剣を構えて前に立ち、地上の魔物を徴発して引きつけている間に、僕は印を切って魔力を解き放った。

 無数の爆発性の火球が高速で宙を飛び、接近中だった空飛ぶ魔物を片っ端から粉々に粉砕した。

「……よし、上空はクリア。アルマ、匍ってるのいくよ。広範囲攻撃魔法で弱らせるから、片っ端から切り捨てて。様子見て僕もやるから」

 僕は印を切って呪文を唱えた。

 並んだ六体の真ん中で大爆発の後に放電が起きた。

「……麻痺してると思う」

 といった時には、アルマは素早く斬り込んでいた。

「……は、速い」

 たちまち三体を倒した時、残り三体が動き始めた。

「……弱かったか。アルマが速すぎて巻き込んじゃうから、気を付けないと」

 僕はアルマの動きを予測し、問題のない位置に光の矢を撃ち込んだ。

 それで動きが鈍った三体は、あっという間にアルマに倒された。

「だから、手出しするんじゃねぇ!!」

「……ごめんなさい」

 僕は息を吐いて前方をみた。

「……うん、取りあえず落ち着いたよ」

「そっか。ったく、いっちょ前に指示なんかしちゃってさ。実は、歴戦の勇者?」

 アルマが笑った。

「これが始めてだよ。村から出てないもん」

 僕は笑った。

「おお、笑ったぞ。なに、始めてでここまでやっちゃうの。怖い子だこと!!」

 アルマがそっと剣を構えた。

「よし、この調子でいくぞ。今がノリノリだから突っ込め!!」

「……了解」

 僕は笑みを浮かべた。


「どりゃあ!!」

 アルマが倒した魔物の死体を蹴飛ばした。

「……なに、ムカついたの?」

「ただの勢いよ。ほら、いくよ!!」

 もう洞窟もかなり進んでいた。

「……外から見た感じだと、そろそろ最奥部のはずだよ。距離を考えてもね」

「おう、そうか。なにがいるかねぇ」

 アルマが剣を構えて笑みを浮かべた。

「……本当に好きだねぇ」

 僕は杖を手に笑みを浮かべた。

「お前もだろ。ったく、大人しいから暴れ出すとこれだ。よし、いこう」

「……あのさ、今までと違っていきなり静けさがきたんだよね。奥の方でもの凄い気配を感じるし、ただ者じゃないよ」

 僕は息を吐いた。

「……分かってる。この感覚、実は何度も味わってるんだ。ここにも生息していたか」

 アルマは腰の剣を外し、背中の剣と替えた。

「これじゃなきゃ効かないよ。君は始めてだろうけど、半端ないからね。まずは、防御を考えて組み立てて。隙をみてチマチマやるしかないよ」

「……分かった、防御だね」

 僕たちは慎重に奥へと進んだ。

「……なんだ、この気配」

「……うん、こいつはヘビーだぞ」

 しばらく進むと、僕の本能が叫んだ。

 反射的に最強の防御魔法を使うと、洞窟を埋め尽くすような勢いで強烈な炎がきた。

「もう見つかったか。でも、これは突っ込んだら死ぬよ。こうやって防ぎながら進むぞ」

 アルマの顔は真剣だった。

「……待って、一撃撃ち込むと同時に防御で。こんなのやってたら、僕の魔力がもたないよ」

「おいおい、アイツ相手に何をブチ込むんだよ。魔法なんてほとんど効かないぞ!!」

「やってみれば分かるよ。ダメならこれでいくしかないね」

 僕は印を切って、杖を前方に突き出した。

 洞窟の壁を破壊しながら突き進んだ光の帯は、かなり遠くで大爆発を起こした。

 爆音と共になにか悲鳴のような声がきこえた。

「……どうだろう。ちょとは効いたかな」

「……お、お前、どんだけ馬鹿力なんだよ!!」

 アルマが僕を肩に乗せた。

「あれ効いてるよ。あの悲鳴が証拠だぜ。撃ちまくれ!!」

「……洞窟が崩壊しちゃうよ」

 僕は印を切り、さっきの魔法を二発撃ち込んだ。

「……これ以上は洞窟が崩れちゃう」

「上等だよ、かなり弱ってるね。なにもしてこないし!!」

 しばらく進むと、なんかとんでもなく大きな魔物がいた。

「出やがったぜ、やっぱりドラゴン。しかも、コイツは長く生きてて強力なエンシェント・ドラゴンだ。魔法で黙らせただけでも上等だよ!!」

「……なにこれ、どうするの?」

 アルマは剣を構えた。

「これはドラゴンスレイヤーっていってね。こういうのの専用武器だよ。よし、サクサク斬ってくるか!!」

 アルマは剣を片手に、とにかく大きな魔物に斬りかかった。

「……ど、どうすればいいんだろう。なんか、固そうだしな」

 なんて悩んでたら、動かなかった大きな魔物がゆっくり動き始めた。

 素早く斬りかかるアルマを鬱陶しそうに手で払おうとしながら、ゆっくり四本足で立ち上がった。

「……ヤバい予感しかしないよ」

 跳躍して斬りかかったアルマを、素早い前足の横振りで弾き飛ばした。

 アルマは洞窟の壁に叩き付けられ、地面に落ちて動かなくなった。

「……ほらね」

 一人しかいなくなった僕は、巨大な魔物に睨まれながら杖を構えた。

「……可哀想とかいってる場合じゃないな」

 僕は印を切り、呪文を唱えた。

 全力で放った光の矢は、魔物の鱗であっさり弾かれた。

「……ほとんど魔法が効かないってこういうことか。防御魔法ではないんだね」

 僕は笑みを浮かべ、印を切って呪文を唱えた。

 大きな魔物の体内で大爆発が起こり、その巨体がグラッと揺れた。

「……アルマが危ない。容赦はしないよ」

 僕は超高速詠唱で同じ魔法をひたすら連発した。

 最終的には、体内の連続爆発に耐えきれず、大きな魔物は粉々になって飛び散った。

「……アルマが危ない」

 僕は慌てて気絶しているアルマに駆け寄った。

「……うわ、予想以上だ。ギリギリの魔力だけどやるしかない」

 僕は印を切り、ありったけの魔力を込めて高位回復魔法を使った。

 アルマの体を光が包み、傷が急速に治っていった。

 アルマが目を開けて僕をみると同時に、意識が一気に吹き飛んだ。


「……ん?」

「よう、優しい勇者。おきたか!!」

 僕はアルマの腕に抱きかかえられていた。

「んだよ、格好悪いな。どうやって倒したの?」

「……うん、あの子の体内で大爆発を連発したんだ。防御魔法じゃなくて、ただ鱗が頑丈なだけだって分かったから。体の中で爆発を起こされたら、さすがに堪らないなって思ったんだ」

 アルマが笑った。

「うわ、極悪なこと考えたね。確かに、ドラゴンって鱗が特殊でさ。外から撃ってもまず効かないからね。中で爆発を起こすか。考えたな!!」

「……うん、痛かったと思うよ。でも、アルマが危なかったから、全力で倒すしかなかったんだ」

 アルマが僕を撫でた。

「なにか、私が絡むと本気だすね」

「……だって、なにかあったら申し訳ないもん。そりゃ本気にもなるよ。とにかく、出来る事は何でもやらないと」

 アルマが笑みを浮かべた。

「おやおや、私を大事におもって頑張っちゃうのか。そうこなくっちゃな、相棒。私だって君が絡むと全力でいくよ。当たり前でしょ」

「……ありがとう」

 アルマが僕を抱えて立ち上がった。

「よし、村に戻ろう。村長がぶったまげるぜ!!」

 僕たちは洞窟の外に向かった。

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