第8話 本気でいこう
「さて、食べる物食べたし寝るよ。床で寝ない!!」
僕をベッドに上げ、アルマは布団に潜った。
「……アルマって、ここにきて驚きはしただろうけど、自然に動けてるでしょ。これ僕の使い魔としてすぐに動けるために、術で精神的に制御されてるからなんだよ。もう、そこの時点で始まっちゃってるんだ。意識してやっているわけじゃないだけど、術の構成としてそうなっているんだ。僕のために、都合良くね。だから、なかなか許してもらえない事なんだ。相手の一生を縛っちゃうから。一人前の魔法使いとして認められるための、最後の儀式なんだよね。あまり好きじゃないけど、やった理由はそれなんだ。まだ抵抗が少なかった、定番のフクロウを狙ったらアルマと契約しちゃった。大変なことなんだよ。なにかと、僕が意識に入るはずだからさ。だから、せめてって頑張ってるよ。ただでさえ、面倒なはずだから」
アルマが笑った。
「だったらなんだよ。私じゃ不満かよ!!」
「そ、そんな事はないけど、よりによって人間だよ。こんなの前代未聞だよ。むしろ、人間の魔法使いに使い魔にされることが多いし、これはある意味普通なんだけど。使い魔にする人を使い魔にしちゃったんだよ。どうしていいか分からないよ」
アルマが笑った。
「いいじゃん、そんなわけの分からないぶっ飛んだ魔法使い。好きなだけこき使えよ。いくらでも働いてやるぜ!!」
「い、いや、もう十分なんだけど。いいの?」
アルマは笑みを浮かべた。
「いいも悪いもないんだろ。いちいち聞くな!!」
「……ごめんなさい」
アルマは僕を撫でた。
「いいじゃん、猫の使い魔だぜ。こんな経験滅多にねぇよ。猫にこき使われるって堪らねぇぜ!!」
「……変わってるね」
アルマは僕を抱きかかえた。
「ここじゃ君しか頼れないんだからな。わけ分からない場所だしさ。あんまりムチャするんじゃねぇよ!!」
「……分かった」
アルマは小さく笑った。
「猫の相棒ね。悪くないぜ。おやすみ!!」
アルマが目を閉じた
「……うん、面白い人だな。怒ってなくてよかった」
「おう、おはよう。早起きはただの習慣だぞ。朝ご飯は作っておいたからな」
「おはよう。まだ明け方なのに。猫並みに早いね」
僕はベッドから下りてテーブルに上った。
「へぇ、魚なんてよく手に入ったね。ここは海から遠いから、滅多に手に入らない貴重なものなのに」
「それがさ、この前助けた馬車がもの凄い勢いですっ飛んできてさ。せめて、これくらいはお礼させてくれって、大量に置いて行っちゃったんだよね。これ、食べきれないよ」
キッチンの隅には、魚が詰まった、木箱が積まれていた。
「うわ、こんなにみた事ないよ。村の人にあげよう。きっと、喜ぶから」
「そういうだろうと思って、もう村長に話してあるぞ。人を集めて引き取りにくるって」
玄関の扉がノックされた。
「はいはい」
アルマが開けると、大勢の人を連れた村長がいた。
「うむ、なにやら贈り物があるとか……」
「うん、そこの魚。食べきれないって!!」
村長は木箱の山をみて腰を抜かした。
「さ、魚だと、これはとんでもない事だ。急いで配ろう。今日の朝食は豪華だな」
入ってきた人たちによって、木箱が運びされていった。
「温泉といい魚といい、なにからなにまですまんな。迷惑ついでに、一つ頼まれ事をしてもいいかな?」
長老がいった。
「頼まれ事?」
僕が聞くと。長老は地図を取りだした。
「この村から少しいった所にモハーデ高原という場所があるのだが、ここに昔から魔物の巣のような場所があってな。ずっと大人しかったのだが、このところ暴れ始めてな。村の元気な者を送って様子をみていたのだが、なにしろ元気なだけで戦いの経験などない。もう何人も命を落としているのでな。これ以上は看過できんというわけだ。危険な頼み事なのだが、引き受けてもらえないだろうか?」
「なに、要するにその巣をぶっ潰してくればいいの?」
アルマがニヤッとした。
「ぶっ潰すなど……適当に抑えるだけでいい。それだけでも、大変なのだ」
「ごめんね、そういう半端な事が出来ない性格でさ。根こそぎ叩きのめして潰しちゃえば、もう心配はないでしょ?」
長老は青くなった。
「もう何百年も存在する巣だぞ。叩きのめすなど……」
「なに、そんな燃える事いってくれちゃって。レオン、とっとと食え。仕事だぞ!!」
「もう、好きなんだから……」
僕は苦笑した。
「と、とにかく、ムチャはしないでくれ。あそこの魔物は強力だし、奥にはなにが潜んでいるのかも分かっていないのだ。とにかく、死ぬほど強そうくらいで」
「いいじゃん、全部暴いてブチのめしてあげるよ!!」
アルマの目が燃えていた。
「……コホン。少し距離があるからな。馬車で送ろう。無事に帰ってこい!!」
心配そうな長老に馬車の上からアルマは笑みを返した。
馬車が走り出すと、アルマは剣を抜いた。
「やっぱりね、妙に固いのばっかだったから、ちょっとガタがきてるな。これはもうダメだな」
剣を鞘に戻して腰から外し、そのまま馬車から放り捨てた。
背中にたすき掛けにしていた別の剣を手に取り、鞘から抜いて状態を確かめた。
「元々、そろそろダメだったんだ。予備は常に二本持ってるよ。あとで、どっかで補充しないとな」
「へぇ、準備いいねぇ」
アルマは笑った。
「剣なんて道具だもん。別に拘りみたいなものはないし、ないとなにも出来なくなっちゃうから予備は必須だぞ。君も腰になんかぶら下げてるけど?」
アルマがニヤッとした。
「ああ、このナイフね。これ、魔法で使うんだ。召喚系で多いんだけど、自分の手を切って魔法陣に血を垂らしてね。見た目どうかと思うし、時間も掛かるからあまり使わないけど、使えば強烈だよ」
アルマが笑みを浮かべた。
「どっかでやってよ。援護はするから!!」
「ええ、痛いんだけどな……まあ、機会があったらね」
馬車は走り続け、やがてのどかな平原に到着した。
「うわ、なんかすごい気配を感じるよ。長老がいうのも分かるね」
僕は背中に括っていた杖を手にした。
「なに、ついにぶん殴るの?」
「まさか、あれは冗談だよ。魔法使いが杖まで使う時は、この上なく本気なんだ。その意思表示でもあるからね。これは、僕も本気でいかないとやられちゃうよ」
アルマが笑みを浮かべた。
「おいおい、大人しい相棒が本気だってよ。これは、いいものがみられるな。楽しくなってきたぞ」
「やりたくないんだけど、もうアルマが止まらないからね」
僕は苦笑した。
「ここだね。この洞窟みたいなところ……」
「そうだねぇ。これは半端ないな」
平原の片隅にあった洞窟のような場所の前で、僕は息を吐いた。
「それじゃ、先制の一撃でも撃ち込むかな。少しでも数を減らしたいから」
僕は杖を片手に印を切り、呪文と当時に振りかざした。
杖から吐き出された、視界を覆い尽くす程の無数の光球が一斉に洞窟に雪崩込み、凄まじいの悲鳴の嵐が地面を揺するほどの勢いで聞こえてきた。
「……」
「うん、これは絶対に手加減が出来ないんだ。魔法に必要な正式な動作……印まで切っちゃってるからね。最低でもこのくらいになっちゃうんだよ。可哀想に」
固まっていたアルマが笑った。
「もう、お前ずっとそれ持ってろ。やればできるじゃん。こんなの隠してやがってよ。なんだよ今の、本気でビビったぞ!!」
アルマが僕を肩に乗せた。
「戦闘準備完了。頼むぜ、相棒!!」
「うん、頑張るよ」
僕は笑みを浮かべ、杖を掲げた。
「よし、いくぜ!!」
アルマは剣を構え、慎重に洞窟に入っていった。
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