第7話 温泉を掘ろう
「やっぱり家はいいね。落ち着くよ」
「おや、急に元気になって。こういうところが猫だな」
アルマが笑った。
「ところで、シャワーだっけ。どんなの?」
僕が聞くとアルマはキョトンとした。
「……ないの?」
「そもそもどんなのか分からないよ。なにに使うの?」
アルマは額に手を当てた。
「ああ。自分で毛繕いしちゃうもんね。なきゃないでいいけど……」
「それはダメだよ。僕はアルマの使い魔なんだから……あれ?」
アルマが笑った。
「逆だろう。いいって、なんか適当に体拭いて誤魔化す。髪の毛は諦めた!!」
「えっと、要するに体を綺麗にしたいんだね。師匠に聞いた妙なものがあってさ。どこでも出るわけじゃないらしいけど、よく分からないから適当にやってみるよ」
「出るってなにが!?」
僕は笑みを浮かべ呪文を唱えた。
家が微振動を始め、なにか凄い音が床下から聞こえ始めた。
「で、もし出た時に備えて」
僕は呪文を唱えた。
広い部屋が一つ増やし、大きな水槽のようなものを中に作った。
「……あの、まさか温泉掘ってるとかいわないよね?」
「ああ、そういうの。なんか掘るとお湯が出るとか聞いたから、適当な地下水脈を片っ端から掘り抜いているんだ。今のところ、ただの地下水だね。これじゃ冷たいからダメだよ」
アルマが唖然とした。
「な、なにやってるの、あれどこでも出るわけじゃないよ!?」
「うん、そうなんだけど。師匠に聞いた話だと、この界隈の地層の分布でだいたい二千メートルくらい掘れば出るとか出ないとか。元々、この辺りは火山帯だったはずなんだ。いまじゃ、草原になっちゃってるけどね。火山帯だったってことは、今も地熱が高い場所が絶対にどこかにあるから、そこに地下水脈が運良くあれば温泉の出来上がりだね。手当たり次第にやってるから、ちょっと待ってね。気合いで掘るから」
「前から思ってたけど、コイツ結構頭いいんだよな」
アルマが笑みを浮かべた。
「そんな頑張らなくていいよ。こんな大工事しちゃってさ」
「だって、僕のせいでここにきちゃったんだもん。頑張らないと……ん、ヒットしたよ。ここから掘削するとして、なんとか湯温を下げる工夫をしないとな。この温度じゃ火傷しちゃうよ。これも、師匠にきいたあれでやろう」
僕は呪文を唱えた。
家の外に大きなプールのようなものを作り、そこに斜めに張った板を被せた。
「また、なに始めたの!?」
「うん、湯温を下げるための装置だね。湯畑とかいうらしいよ。聞いただけだから、合ってるか分からないけど、改良しながらやるから待ってて。目標の湯温は高くても四十五度くらいかな。これでも熱いはずだけど」
「……君が熱いよ」
アルマが苦笑した。
「うん、出来たよ。お待たせ」
「……普通に温泉だね。まさか、こんなところで」
アルマは笑った。
「ったく、拘りすぎだって。これどうするの。みんな、お風呂入る習慣ないんでしょ?」
「大丈夫、温泉の熱はなんでも使えるからさ。今度の冬は、この村の人は楽なんじゃないかな。この辺りは寒いからね」
アルマが笑った。
「なに、ちゃっかりサービスしちゃったじゃん。勿体ないな、ここまでやって置いてっちゃうんなんて!!」
「うん、持ち運びできるものじゃないし、この場所のものだからね。有効利用してもらえればいいよ」
僕は呪文を唱えた。
外にある湯畑から村中に地下水路がのび、そこら中で湯気が上がり始めた。
「ついでに色々作っておいたよ。魔法って本来はこう使うべきものだからね。便利道具だからさ。今頃、村の人たちが驚いてるよ」
「そりゃそうだろ、いきなりなんかお湯が出てきたんだから。まあ、いいんじゃないの」
家の扉が開けられ、村長が飛び込んで来た。
「な、なんかの前触れかもしれん。いきなり村中になんかお湯があふれ始めたのだ。悪い事はいわない。今すぐ逃げなさい!!」
「あ……」
「ほら、驚いちゃったじゃない。この子の最高傑作よ。温泉ってしらない?」
村長がキョトンとした。
「……聞いたことがある程度だな。これがそうだというのかね?」
「うん、色々作ったから、野菜茹でたりとか卵をゆでたりなんか、好きに弄って使ってよ。せっかく出たから」
村長が目を見開いた。
「……そのような所行、実はお主は神か?」
「……いや、普通の魔法使いっぽいです」
村長が頷いた。
「なるほど分かった。これは、いいものをもらった。さっそく、各家庭に床暖房を配備しなくてはな。前から欲しかったのだ」
村長は家から飛び出ていった。
「床暖房か。考えつかなかったな」
僕は呪文を唱えた。
「うん、これで全部の家の床はポカポカだよ。夏はどうするかな。お湯を止めるための装置でもつけとけばいいかな。ついでから、部屋の温度を調節できる装置を作っちゃおうかな。温かい空気しか出ないけど、冬は最高に暖かいよ」
僕は呪文を唱えた。
「や、やりすぎだ!!」
アルマが笑った。
「ほっとくとどこまでもやっちゃうねぇ……」
「うん、ついでだから、村の真ん中に師匠から聞いた間欠泉とかいうのも再現したよ。時々、ど派手にお湯が吹き出るから楽しいよ」
僕は笑みを浮かべた。
「馬鹿者、迷惑だからやめろ!!」
「それが、面白がってもう村人の人気スポットになってるんだ。ないかららね、こんなの。僕たちって、こういう新しい妙なものには堪らなく反応しちゃうからさ」
「そこも、ある意味猫だな……」
僕は家の玄関に向かった。
「一応、アラームを仕掛けてくるよ。ゆっくりしてて」
「こら、使い魔がのんびり温泉かよ。召使いなんだろ!!」
僕は笑みを浮かべて、玄関の外に出た。
「家が大きいからな……」
僕は草原を歩き、小さな魔法陣を設置して歩いていた。
「この魔法陣、便利なんだけど設置が面倒なんだよな……」
呟きながら設置していると、僕の神経に何かが障った。
「全く、忙しいんだよ。どっかいけ」
僕は電撃の魔法を放った。
「……あっ、怒っちゃった」
やや遠くから、もの凄い勢いでなにかが走ってきていた。
「こうなったら、やるしかないんだよね」
僕は突っ込んでくる何かに向けて、攻撃魔法を放った。
高速発射された光の矢は何かを頭からお尻まで突き刺さって爆発した。
「……最初からこっちの方が優しいのかな。分からないや」
バラバラに吹っ飛んだ何かを見つめて頭を掻き、僕は魔法陣の設置を続けた。
「こら、また暴れただろ。すげぇ爆音が聞こえぞ!!」
風呂上がりのアルマが怒鳴った。
「だって、アルマがお風呂入ってるのに、呼ぶわけにはいかないでしょ。自力で何とかしないと……」
「あのねぇ、風呂だろうがなんだろうが、なんかあったら動くのが私なの!!」
アルマが頭を抱えた。
「だって、服も着ないで出てきちゃうでしょ。それはマズいって、いくら僕でも分かるからさ。それに、ゆっくりして欲しかったしね。そのためには頑張るもん」
「あ、あのね、なんかあったらどうするの。また挨拶でもする気!?」
アルマは僕を抱きかかえた。
「全く、ちょとは頼れ。裸で剣を振り回すくらいなんとも思わん。そんなヤワな神経じゃ旅人なんてやってられん。とにかく、呼べ!!」
「ぼ、僕が困るんだけど、分かったよ」
アルマがニヤッと笑った。
「頑張ったご褒美だ。風呂にブチ込んでやる!!」
「や、やめて!?」
アルマは僕を湯船に放り込んだ。
「やめて、毛が濡れて気味悪い!?」
「うるさい、洗ってやる!!」
さらに僕を泡だらけにして、頭からお湯を掛けた。
「……酷い」
「ほら、綺麗になったぞ!!」
僕を丁寧に拭いてベッドに乗せた。
「いらないんだって、かえって大変なんだから……」
ぼくはせっせと全身を毛繕いした。
「いいんだよ、猫もたまには綺麗になっとけ。どれ、晩ご飯でも作るか。材料なんてないよね」
「うん、旅立つ時に全部綺麗にしちゃったからね」
アルマが玄関に向かった。
「どれ、村でなんか買ってくるか。待ってて」
アルマが家から出ていった。
「……裸のアルマなんて呼べないよ。怪我したらどうするの。身を守るものがないんだからさ」
僕はため息を吐いた。
しばらくして、アルマが帰ってきた。
「呆れた適応力だよ。もう、フルに温泉を使ってるぞ。これ、温泉卵と温泉饅頭。出来るまで食べてて」
僕はテーブルに置かれた食べ物に近づいた。
「……饅頭はいいんだけど、卵の殻が割れないぞ。だから、みんな卵なんて食べないはずなんだけど、なんでこんなの作ったんだろう。僕がうっかりいっちゃったせいかな」
僕は卵をじっと見つめた。
「……これは難しいな。この微妙な強度が問題なんだよね。下手にやると粉々になっちゃうな。かといって、中途半端な力じゃ効かないし。茹でた事で生卵とは状況がまるで違うんだよね。これは難しいぞ」
卵を睨んでいるとアルマが無言でやってきて、殻を割っていった。
「食べたかったら呼べ。こっちの方が早いだろ!!」
アルマはキッチンに向かった。
「……まただ。塩を掛けるべきか、掛けずに食べるべきか。それが問題だ」
アルマがやってきて、適当に塩を掛けていった。
「……うん、これで問題ない。やっと食べられる」
「ったく。ゆで卵でどれだけ苦労すんの!!」
アルマが笑った。
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