第3話 出発
「さて、村見物も終わったし、いよいよ旅立ちますか」
アルマが自分の鞄をゴソゴソやりながらいった。
「旅なんてした事ないから、なにを用意していいのかも分からないよ」
僕はアルマに正直にいった。
「だろうね。大した物は要らないんだけど、最低限っていうのはあるかな。まあ、まさか君に持たせるわけにはいかないから、その辺は任せておいて」
アルマは笑った。
「分かった、ありがとう」
「うん。で、せめてこの辺りの地図くらいは欲しいな。どっかで売ってないの?」
「地図か。そもそも、村から出ようっていう人が滅多にいないんだよね。僕も師匠のところで何回かみただけだな……」
アルマは僕を抱きかかえた。
「それじゃ、師匠に頼み込んでみるか」
僕たちは家を出て、師匠の家にいった。
「なに、わざわざ旅立つとな。うむ、いい機会だから、レオンも見聞を広めてきなさい。少々古いが地図ならこれだ」
師匠が書棚から丸めて閉じた紙をアルマに手渡した。
「うん、なんとかなりそうだね。ここは、なかなか広いぞ。これは楽しみだね」
「レオン、外に出るならこれを持っていきなさい」
師匠が杖を手渡してきた。
「こ、これって!?」
「うむ、免許皆伝かな。それの使い方は分かるな。魔法を使う時に、魔力の集中点をして使う事でより高い効力を発揮出来る。ついでに、なにかムカついたら、気合いを込めてぶん殴ってもいい。頑丈だからな」
「気合いはいいって!!」
アルマが笑った。
「……ムカついたら気合いでぶん殴っていいんだ。いいものもらった」
「ほ、ほら、変なところだけ覚えちゃったじゃん!!」
師匠が笑った。
「そうだ、気合いだ。気合いでぶん殴るとスッキリするぞ。そもそも、この子に杖などいらんのだ。好きで学んだだけの事はあって腕前は保証しよう。性格的な問題でセーブが掛かってしまうがな。いざという時でも十分な対応が出来ない。そこが心配なのだ」
「うん……」
僕はため息を吐いた。
「任せなさい。私が根こそぎぶっ飛ばすから。逆に手加減出来ないのが悩みだからさ。まあ、地図をありがとう。これで出発出来るよ」
「うむ、何かあったらすぐに戻ってきなさい。レオンが転移の魔法を使えるから、一瞬でここに戻れるからな。あと、これを渡しておこう。絶対に必要になる」
師匠は革袋をアルマに手渡した。
「ん、お金?」
「そういうことだ。レオンから巻き上げた法外な授業料だ。こうして還元したのだから問題ない」
「……師匠、お前ってってヤツは」
「いいんだよ。お陰で魔法が使えるんだもの」
僕は笑みを浮かべた。
「……おい、お前こんな子から巻き上げていたんだぞ!!」
「……だって、吹っかけたら素直に払うんだもん。もらわないわけにはいかないだろ」
アルマがため息をついた。
「おい、師匠にまでカモにされてたぞ。ちょっとはなんかいえ!!」
「だから、いいんだって。それで魔法を教えてもらえるんだもん。それが高いか安いかなんて分からないし、払えって言われたから払っただけだもの。払えない額じゃなかったしさ」
僕は笑った。
「……だ、ダメだ、この子放っておいたらエラい事になる!?」
「……もうなっているのだよ。私など可愛いものだぞ。どさくさに紛れて背負わされた借金がいくらあると思う。せっせとなにか働いて払ってはいるがな。それでも疑問に思わないから、文句もいわないんだぞ。私も手を回したが、とても追いつかん」
師匠がため息を吐いた。
「あーあ、まずはそいつらを綺麗にするか。全く、この子はどうしょうもないな!!」
アルマは僕を抱えた。
「全部ぶっ潰すぞ。どうせ、ロクなもんじゃないから!!」
「あまり暴れないでね……」
アルマはニヤッと笑った。
「それは向こうの出方次第だぞ。旅立つ前に、全部片付けるからな。案内しろ!!」
「あそこ怖いんだよ。行きたくないな……」
気乗りはしなかったけど、アルマがやたらと元気なので、僕はまず一件目にいった。
「おらぁ!!」
僕を抱えたまま問答無用でアルマが暴れ、事務所は壊滅した。
「……だから、暴れないでって」
「まだあるんだろ、片っ端からいくぞ!!」
アルマの目には妙な光が点っていた。
「……ダメだ、暴れないと収まらないね」
僕はため息をついた。
「なんだ、こんなもんか……」
最後の一件は、村で最も怖れられている変な組織の本部だった。
「……凄い、一撃で壊滅した」
などと僕が言ったとき、ワラワラと怖いお兄さんたちが出てきた。
「へぇ、いっちょ前に刃物なんて持っちゃって。猫サイズじゃ怖くもないよ!!」
怖いお兄さんたちが一斉に飛びかかってきた。
「……ヤバい、これは手に負えない」
僕は素早く呪文を唱えた。
放たれた無数の光の矢が怖いお兄さんたちを貫いた。
「……痺れるくらいだよ。今のうちに、投げ飛ばしちゃって」
アルマの顔が引きつった。
「馬鹿者、刃物まで持って襲ってきた馬鹿野郎どもに痺れるってなんだよ。思い切りぶちのめしていいんだよ!!」
アルマは、地面に転がっている怖いお兄さんたちを容赦なく踏みつけて蹴り飛ばし、持ち上げては地面に思い切り叩き付けた挙げ句、さらにガシガシ踏み続けた。
「……いや、さすがに死んじゃうって」
一人残らず叩きのめし、生きてるかどうかも分からない有様になった怖いお兄さんたちを尻目に、アルマは髪の毛を掻き上げた。
「……つまらん。もっと骨のあるヤツはいないのか」
「この村で最強が多分これだね。やりすぎ……」
アルマは僕を抱えて一度家に帰った。
「やる事はやったぞ、睨んだだけで君の借金はなくなったぞ!!」
「……じゃあ、なんで暴れたの?」
アルマは笑った。
「またきちゃうでしょ。だから、根本を粉砕してやっただけだよ。これだけ暴れれば噂になるだろうし、もう妙な連中は来ないと思うよ」
「あ、ありがとう。実は困っていたんだ……」
アルマは地図を広げた。
「よし、ゴミ掃除が終わったところで、いよいよ出発だぞ。まずは隣の村だな」
アルマが玄関を出た。
「一ついっておくよ。僕たちってよそ者には厳しいんだ。歓迎はされないと思った方がいいよ」
「上等だよ。それでこそ、旅ってもんだよ。どこでも、田舎ってそんな感じがあってね。慣れてるから問題ない」
僕たちは通りを歩き、村の門についた。
「ここから先はいったことがないんだ。だから、どうなってるか分からないよ」
「分からないから見にいくんでしょ。いくぞ!!」
アルマが門の扉を押し開けようとしたが、ビクともしなかった。
「ああ、忘れてた。危ないからって、普段は鍵をかけてあるんだ。村長の所にいかないと……」
「面倒だからぶち破れ。一発ズドンと!!」
アルマが僕をみた。
「……や、やるの?」
僕はため息を吐き、呪文を唱えた。
門が派手に爆発し、粉々になって消し飛んだ。
「おう、やるじゃん。魔法っていいなぁ」
「ああ、おこられるよ……」
頭を抱える僕を抱きかかえ、アルマは村から出た。
「景気づけにいいじゃない。やっぱり、派手にいこうよ」
「……と、とんでもない使い魔だ」
アルマは小さく笑い、僕をそっと撫でた。
「いいじゃない、こういうの嫌いじゃないでしょ?」
「……う、うん、前からやってみたかったりもしたよ」
こうして、僕たちは村の門を派手にぶっ飛ばし、旅の第一歩を踏みだしたのだった。
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