第4話 とりあえず歩こう

 村を出た僕たちは、草原の中を走る道を歩いていた。

「へぇ、いい所じゃない。こういうの好きだよ」

 アルマが鼻歌交じりにいった。

「僕は落ち着かないな。ここは自分の場所じゃないからさ。なにか、襲われそうな感じだよ」

 僕はため息を吐いた。

「なにに襲われるのよ。楽しみなさい」

 しばらくいくと、向こうから馬車がやってきた。

「馬車まで猫サイズか。面白いな。それにしても、乗っている人だか猫だかが全員武装してるし、なかなかいい感じで警戒感を放ってるね」

「おっと」

 僕は道の脇に避けて、両手を挙げた。

「やっといて、変に警戒されないように」

「分かった」

 アルマも僕の隣で手を上げていると、馬車の一人が武器を掲げて笑みを送ってきた。

「ふぅ、あれは行商人の馬車なんだ。あれだけ警戒していたから分かると思うけど、ここは危険地帯なんだよ。隣の村からきたと思うけど、馬車のそこら中になんかネバネバの液体がついていたし、魔物とでも戦ったと思うよ。物を売りにいくのも命がけなんだ」

 アルマが笑みを浮かべた。

「面白くなってきたじゃん。隣の村までは……」

 アルマが地図をみた。

「結構あるんだね。歩きでいくと、着くのは明日になっちゃうね」

「うん、お互いに喧嘩しないようにって、結構な間隔を開けているんだ。こんな場所で野宿だよ。僕は死にそうだよ……」

 アルマが笑った。

「旅にはよくあるよ。これも、楽しみなんだって。ほら、これこそ気合いでいくよ!!」

 アルマとしばらく歩いていると、怒号と獣のうなり声のようなものが聞こえてきた。

「おお、戦闘中ってとこだね。この気配は間違いない!!」

 アルマが剣を抜いた。

「……いくの?」

 僕はため息を吐いた。

「当たり前でしょ。助太刀いたす!!」

 駆け出したアルマについていくと、獣としかいいようのない巨大な魔物と、武装馬車との間で激しいやりあいが続いていた。

「魔物は猫サイズじゃないってか。これまずいよ、あんな武器じゃ追い払う事も出来ないぞ」

 アルマが剣を構え、僕はすかさず呪文を唱えた。

 離れた電撃が魔物を打ち据えた。

「こ、こら、なんで中途半端なことすんの!?」

 魔物はゆっくりこっちを向いて、鋭く睨みを利かせてきた。

「……こ、怖い!!」

 僕は反射的に呪文を唱え、両手を突き出した。

 放たれた純白の光弾が魔物にめり込み、大爆発を起こした。

「最初からやれ!!」

「……だって、怖かったんだもん」

 しかし、魔物はしぶとかった。

 手負いになったぶん凶悪になり、猛烈な殺気を放った。

「……やるってか。かかってこい」

 アルマも負けずに怖いくらいの殺気を放ち、剣をさっと下ろした。

 瞬間、僕の目でもギリギリ追える速さで間合いを詰め、その体を叩き斬った。

「なんだあれ、固すぎて刃が奥まで通らないぞ!!」

 戻ってきたアルマが叫んだ。

「……なるほど、あの強度ならいけるぞ」

 僕はアルマをみた。

「攻撃魔法だけでも剣だけでも、あの体には通用しないと思うよ。今の動きを見て分かったから、いつも通り斬って。僕が合わせて細工するから」

 アルマは笑みを浮かべた。

「ただの大人しい子だと思ったら……。いいよ、いくぞ!!」

 素早く斬り込んだアルマの動きに合わせ、僕は素早く呪文を唱えた。

 アルマの剣が強烈に光輝き、魔物の体があっという間に細断された。

「な、なに、今の!?」

「うん、魔法剣っていって、剣に魔法の効果を付与するんだ。持続時間が短いからタイミングが難しいんだけど、バッチリだったね」

 僕は笑みを浮かべた。

「なんだ、この。いい物ちゃんと持ってるじゃん。これは、心強いな!!」

 馬車の人たちが下りてきた。

「いや、助かりました。あんなの滅多に出ないので、さすがにダメだと思いました」

「おう、たまたま通り掛かって良かったよ。気を付けていきな!!」

 馬車の人たちは、頭を下げて再び馬車に乗り、ゆっくり進んでいった。

「これも旅だぞ。こういう事もあるな。たまに!!」

「人助けっていうの。やった事なかったよ。助けてもらってばかりで」

 アルマが笑った。

「いいもんだろ。まあ、こういうのもなにかの縁なんだ。どこかで、困った時に助けてもらえるかもよ?」

「へぇ……」

 僕たちとアルマは、再び道を歩き始めた。


「さて、そろそろかな。日が落ちると大変だから」

 夕方になった頃、アルマは道の脇の草原に避けて、なにか作業を始めた。

「旅人には必須だね。気持ち程度だけど、テントみたいなものと寝袋ってやつ。慣れると妙に快適なんだよね」

 草原に布のようなものをロープで張り、どうやらこれを家のようなものの代わりにするようだった。

「へぇ、みた事ないから面白いや」

「私なんか大体これだよ。宿代ケチって、よく野宿してるから」

 アルマが笑いながら、なにか料理を始めた。

「……へぇ、こんなちっちゃいコンロとかあるんだ」

「うん、これも必須かな。こういうの持ち歩いてるから、重いのなんの!!」

 アルマが笑った。

「へぇ、みてて面白いな。ああ、僕もちょっと仕掛けしてくるよ。アラームっていうんだけど、警戒線を何かが踏むともの凄い音が鳴るんだ」

「そんなのあるんだ。やっといた方がいいね」

 僕は頷いて、かなり距離を開けてぐるっと円を描くように、草原に小さな魔法陣を描いていった。

「……開けすぎたかな。でも、近いと意味ないしな」

 それを繰り返していると、いきなり目の前の土が盛り上がり、巨大なミミズみたいなものが出現した。

「……こ、こんにちは」

 僕はとりあえず、挨拶してみた。

 しかし、ミミズは挨拶を返すどころか、なにか粘っこい液を口から吐き出した。

「な、なにこれ!?」

 まともにそれを被り、焼けるような痛みが全身を走った。

 さらに全身が痺れてきた時、ミミズの口が迫って来た。

「こ、この!!」

 呂律が回らない舌で呪文を唱えた瞬間……なにも起きなかった。

「む、無理だよ!?」

「この野郎!!」

 間一髪でアルマがすっ飛んできて、一瞬でミミズを細切れにした。

「うわ、そこら中火傷みたいになってるじゃん。なんで、呼ばないの!!」

 アルマは僕を急いで運び、体を水で洗って何かを塗った。

「……なにか分からないんだけど、強烈な危機感を感じてさ。慌てて様子をみたらあれだよ。これが、使い魔ってこと?」

 アルマが笑みを浮かべた。

「そうかもしれない。とにかく、ありがとう」

 僕はため息を吐いた。

「全く、なにやってるのよ。デカい声出すくらいしろ!!」

「……ビックリして、思わず挨拶しちゃった」

 アルマが爆笑した。

「挨拶する相手じゃないだろ。なに考えてるのよ。薬塗っといたか休んでてて。全く、魔物に挨拶かよ。気に入ったぞ!!」

 アルマは布の上に僕を寝かせた。

「なかなか面白いコンビが出来たじゃない。これは楽しめそうだ」

「僕も楽しいかもしれないな。もう、怖くはないよ」

 アルマが笑った。

「いいことだ、よろしく頼むぜ!!」

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