第2話 垣間見えた実力

「ん?」

 いつの間にか寝ていたようで、窓から朝日が差し込む中、美味しそうな匂いで目が覚めた。

 当然、人間サイズのベッドなので大きい。

 なんとなく恥ずかしかったので、床で丸くなったら無理矢理ベッドに乗せられて、そのまま寝てしまった。

「よう、起きたか。使い魔らしく朝ご飯作ったぞ。なにが好物か分からなかったけど、作っちゃったから食べてね」

「……あ、ありがとう」

 僕は全身の毛繕いをして、大きく伸びをした。

「あはは、そこは猫だね。ほら、食べちゃいな」

 僕はベッドから下りてテーブルに飛び乗った。

「勝手にちょっと歩いてきたぞ。買い物がてらね。なんか、みた事ない食材ばかりだから、適当にやっちゃったぞ」

「……これ、高級品だよ。どこにそんなお金が?」

 アルマは笑った。

「なに、君の師匠っていい奴じゃん。大変だからって、なにからなにまで持って来たぞ。これ高級品なんだ」

 アルマは炒めたそれを食べた。

「うん、普通に美味しいじゃん」

「それね、炒めてもいいんだけど、実は生でそのまま囓るものなんだ。僕たちって、あんまりちゃんと料理しないからさ」

 アルマは笑った。

「だったら食べなよ。意外とイケるぞ」

「……いただきます」

 僕は普通ならそのまま囓る炒め物を食べてみた。

「……お、美味しいぞ。生よりも」

「でしょ、手間は惜しんじゃだめだよ。ほら、どんどん食べて」

 僕は数々の皿に盛られた料理をそっと食べて回った。

「……全部美味しい。人間が作ったはずなのに」

「あれま、私って実は猫だったり?」

 アルマが笑った。

「ああ、自己紹介的な事してなかったね。簡単に言っちゃうと、世界中を気ままに歩いてるロクでなしかな。冒険者とかいわる事もあるけど、そんな格好いいもんじゃないよ。ちなみに、年齢は十六だからな。秘密を教えてくれたお返しね」

 アルマは笑みを浮かべた。

「僕はこの村で魔法を勉強してるだけだからね。面白くてやってるだけだし、特になにがしたいなんて目標もないよ。平和に過ごせればいいかな」

「魔法を使えるなら、旅でも出たら便利なんじゃない?」

 アルマが笑みを浮かべた。

「あのね、村の中は安全ではあるんだけど、一歩出たら危険と隣り合わせだよ。何だかよく分からない、魔物とかいう生き物も山ほど出るし、迂闊に出歩くと簡単に命を落としちゃうよ。それが、出ない理由の一つなんだ」

「へぇ、魔物ね。そりゃお手並み拝見かな。世界を歩いてると、そういう地域に差し掛かる事もあってね。いっておくぞ、そんなに弱いつもりはないからね」

 アルマは腰に帯びたショート・ソードだったか……とにかく、なんとなく手頃なサイズの剣をチラッと見せた。

「へぇ、強いんだ。いいな……」

「おや、そういう気持ちがあるじゃない。だったら、実戦あるのみだよ」

 アルマは僕を撫でた。


「うん、そんなに広い村じゃないから、すぐに終わっちゃうけどね」

「構わないから案内してよ」

 僕とアルマは村の中を歩いていた。

「平和そうでいいね。のどかだし」

「……そうでもないよ。きた」

 僕たちの前に、二十人ほどの険悪な空気を放った集団が立ちはだかった。

「なに、どこにでもいるゴロツキってやつ?」

 アルマが笑った。

「油断しないで、半分くらいは魔法使いだね。魔力の流れで分かるよ」

 アルマがニヤッと笑みを浮かべた。

「ヤル気満々か。なら、遠慮はいらないな」

 アルマがバキバキを指を鳴らした。

「……くるよ!!」

 僕は反射的に防御魔法を放った。

 同時に飛んできた無数の火球が消滅した。

「やるじゃん。猫好きとして、猫をぶん殴るのは気が引けるけど!!」

 アルマが集団に飛び込み、片っ端から投げ飛ばした。

「他愛もないってね!!」

「あっ、怪我してるよ」

 僕は回復魔法でアルマの怪我を治した。

「大袈裟だな!!」

「いや、今の毒だよ。ほっといたら、大変な事になってたよ」

 アルマが固まった。

「な、なに、そんな感じの相手だったの?」

「うん、みんな迷惑していたんだけどね。アルマが全部投げ飛ばしちゃったから、もう安心だね」

 僕はそっと笑った。

「おっ、なんか笑ったぞ。可愛いじゃん。気に入ったぞ」

 アルマが僕を抱きかかえた。


「……ほら、きちゃったよ。いわゆる、ブチキレたっていうやつだね。こういうの苦手なんだよな」

 僕はため息を吐いた。

「ほう、また大勢揃えてきたね」

 ぼくたちの前に、またも集団が立ちはだかった。

「推定百以上だね。どうやら、全員で寄ってたかって僕たちを叩こうっていう感じみたいだね。しかも、ほとんど魔法使いだよ。こんなにいたんだ……」

「こら、関心してないでなんとかしろ。さすがに、魔法が相手じゃ分が悪いぞ」

 アルマに頷き、僕は呪文を唱えた。

 突き出した両手から放電を伴った光の帯が放たれ、集団のと真ん中に突き刺さった。

 爆発が起きて、集団の一部が吹き飛んだ。

「……意外と、アクティブだね」

「うん、怖がってる場合じゃないからね。僕だって、ちゃんとやらないと」

 すぐさま反撃の攻撃魔法の嵐がやってきた。

「……甘い」

 僕は全ての攻撃魔法を無効化魔法で打ち消し、続けざまに攻撃魔法を放った。

 そのほとんどが、相手の防御魔法で打ち消されたが、これは想定通りだった。

「防御の後は隙が出来るんだ。もう、あの人たちは動けないよ」

「な、なにやったの」

 僕は笑った。

「怪我をさせるのはなるべく避けたかったから、頃合いをみて纏めて麻痺させたんだ。これなら問題ないでしょ。半日は動けないから」

 アルマが笑った。

「それが甘いの。こんな事されてみなよ、余計になにかやってくるよ。まあ、ここは優しいご主人様に代わって、極悪な使い魔がボコボコにしてやるよ。二度と立ち向かってこようと思わないほどにね」

 アルマは動けない集団に向かって突っ込み、ひたすら暴れて投げ飛ばした。

「……すごいな。特に投げ飛ばすって、絶対僕には出来ないからな」

 最終的に全て投げ飛ばして、どこかに放ってしまったアルマが戻ってきた。

「これで、大掃除は完了?」

「うん、あんなにいたって知らなかったけど、これでこの村も住みやすくなったと思うよ」

 アルマは笑みを浮かべて僕を抱きかかえた。

「なに、か弱いニャンコ様だと思ったら、なかなか強烈な牙を持ってるじゃないの。私は魔法なんて使えないから、羨ましく思ったぞ」

「うん、好きでやってるうちにね。でも、何か壊したり傷つけるのは好きじゃないから、攻撃魔法は出来れば使いたくないんだよね」

 アルマが笑った。

「馬鹿たれ、自分を守るために出し惜しみするな。あんなの、根こそぎ吹っ飛ばしていいの。じゃないと、もっと酷い目に遭うよ。そういう、必要な攻撃もあるんだからな」

「……それができないんだよ。分かってはいるんだけど、自分が痛いのは嫌だからさ。可哀想だって思っちゃって」

 アルマがため息を吐いた。

「ダメだ、これは……。私が頑張って根こそぎ吹き飛ばしてやる。そのための、使い魔だろ。これは、楽しくなってきたぞ」

「ああ、あんまり暴れないで!!」

 アルマが笑った。

「相手次第だな。聞き分けのないヤツには、それなりの事はするよ」

「お、お願いだから!!」

 アルマが笑った。

「それは聞けないぞ。君を守るのが役目だからね」

「……あ、ありがとう」

 アルマは笑みを浮かべて、僕を撫でた。

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