猫の使い魔

NEO

第1話 使い魔契約の儀式にて

「いつも思うんだけど、なんでこういうのってジメジメした地下室でやらないといけないのかな……まあ、いいや」

 僕は手に特殊なチョークを持った。

 魔法で人間の手の形にしないといけないから面倒だし、どうにも気持ち悪いので好きじゃないけど、本来の手では出来ないのでしょうがない。

 僕は小さく息を吐いて、気持ち悪い手でチョークを持った。

 地下室の床に複雑な魔法陣を書いた。

「僕もやっと師匠からここまで認められたか。師匠がいってたな、こういうのは結局は気合いだって……」

 僕は目を閉じ、記憶している長い呪文を延々と詠唱した。

「おんどりゃあああああああああ!!」

 師匠の教え通り、僕はありったけの気合い込めて、全開で魔力を解き放った。

 魔法陣が強烈に輝き……えええ!?

「あ、あれ……猫?」

 魔法陣の真ん中にいたのは、滅多にみない人間だった。

「……どうみても、フクロウじゃないよね?」

 しばらく沈黙が落ちた。

「ぎゃあああ、ごめんなさい!!」

 僕は慌てて頭を下げた。

「ちょ、ちょと!?」

 人間が慌ててて近寄ってきた。

「とりあえず、落ち着いて。なにがあったか説明してくれる?」

 人間が僕を抱きかかえた。

「……どこから説明すればいいか分からないけど、ここはファルランド。人間は猫って呼ぶみたいだけど、ここの住人は全てその猫なんだ。それで、今僕がやったのは魔法使いのお友達みたいな、使い魔の契約儀式だったんだ。そしたら」

 僕は抱かれてる腕に顔を押し付けた。

「な、なに、なんか泣いちゃうような事しちゃったの!?」

 人間が慌てて僕を撫でた。

「……うん、使い魔の儀式でここに出現したって事は、君は僕の使い魔になっちゃったって事なんだよ。お友達なんていったけど、半分は召使いみたいなものだよ。僕がこうしてってお願いしたら、最優先でそれをやらないといけない。そういうように体が動いちゃうんだ。とんでもないミスだよ、なにが気合いだよ」

 その人間は苦笑した。

「なに、要するに私は君の召使いにされちゃったわけ。猫の召使いだって。面白いじゃん。そんなに気にするなって。私は暇な旅人だもん。これも経験だよ」

 その人間は僕を優しく撫で続けた。

「……いわゆる解約は出来ないんだよ。僕が死ぬまで付き合うハメになっちゃったんだよ。なんてことしちゃったんだろう」

「だから、気にするなって。こんな場所きた事ないし、かえって好都合だよ。ああ、私はアルマって名前なんだけど、君の名前を教えてくれる。まずは、そこからでしょ?」

 人間は小さく笑った。

「……魔法使いは本名を絶対に名乗っちゃいけないんだけど、ここで名乗らないわけにはいかないよね。僕はレオン。レオン・ギルバート。秘密だからね」

 僕はため息を吐いた。

「あれ、魔法使いなんだ。おもしろいね。フルネームでまで教えてくれちゃって。アルマ・コルテアよ。もちろん、普段はアルマでいいから。私はレオンって呼ぶよ。まずはゆっくり話したいね」

 アルマがいった。

「どうしても目立っちゃうんだよね。人間なんてまずいないから。家だって人間には狭いし……まずは、この村の村長に話さないと。師匠からも死ぬほど怒られるぞ……」

 僕はため息を吐いた。

「さっそく使い魔の仕事か。文句いうヤツを黙らせるっていうやつ?」

 アルマは笑った。

「喧嘩しないでね。いい人ばっかりだから」

「分かってるよ。そんな事したら、レオンが辛いでしょ」

 アルマは笑みを浮かべた。


「うお!?」

 地下室の階段を登ったところに、師匠が立っていた。

「どうも、使い魔のアルマです」

 アルマは笑った。

「馬鹿者、気合いを入れすぎだ。人間なんて呼んじゃってどうすんの!?」

「……ごめんなさい。気合いの調整は習ってないので……」

 僕はアルマの腕に抱えられたまま、ボソボソいった。

「お前こそ馬鹿だ。魔法を気合いで使うなんて教えるから、こんな可哀想な子が出来ちゃったんでしょうが!!」

 アルマが長老を怒鳴りつけた。

「……根性にしておくべきだったかな?」

「そういう問題じゃないでしょ。どういう教え方したの?」

 師匠は笑った。

「まあ、自分でもいうのもなんだが、私はこのファルランドでもそれなりの魔法使いでな、ガチガチに教えていたら、そのレオンが泣いてしまってな。つい熱くなってしまうので、適当に冗談を挟んで教えていたのだが、どうも微妙に入ってしまったようだな」

 アルマが爆笑した。

「ちょ、この子なんか可愛いぞ。へぇ、素直っていえば素直なんだね」

 アルマが笑みを浮かべて僕を撫でた。

「……要するに、馬鹿って事なんだと思うよ。魔法を勉強するようになって、よく分かったからね」

「馬鹿でいいんだよ。それが持ち味なんだからさ。それのサポートか。ただぶらつくより面白そうだな」

 アルマが僕の頭を撫でた。


「で、これから村長の家なんだけど、行くまでにすっごい注目されると思うよ。覚悟はいい?」

 僕はため息をついた。

「別に気にしないけど。いくよ!!」

 僕は玄関の扉を開けた。

「確かに狭いね。通れるけど……」

 アルマが通りに出た途端、そこにいた全住人がポカンとして固まった。

「おお、いい感じだね。こんな反応されないもん」

 アルマが笑った。

「うん、いこう」

 僕とアルマは通りを歩いて、すぐ近くの村長の家にいった。

「ぬぉ!?」

 村長が腰を抜かした。

「はいはい、使い魔だぞ。凄いだろ!!」

 アルマが笑った。

「レオン、おまえヤンチャ過ぎるぞ。人間が使い魔なんて聞いた事がないぞ!!」

「……ごめんなさい」

 僕は素直に頭を下げた。

「ああ、ぶったまげたわい。なるほど、レオンの使い魔か。この子は決して悪い子ではないのだが、大体もう性格は分かったと思う。もう、よからぬ連中の格好のカモだな。寄ってたかって、かなり酷い目に遭わされているのだが、本人は怒ろうともしない。困ったものだよ」

 アルマが笑みを浮かべた。

「ほら、仕事がどんどんできる。楽しくなってきたじゃない」

「うむ、これもなにかの縁だな。我々だけではカバー出来ないのでな、ぜひ面倒をみてやって欲しい。村人総出でそれなりの大きさの家を建てよう。ここは魔法が発達しているのでな、すぐに出来る」

 村長は大きく息を吸い込んだ。

「おらぁ、野郎ども、緊急の仕事だ。十分で終わらせろ。モタモタすんるんじゃねぇ!!」

 村長が大声を張り上げ、全住民が一斉に動いた。

「そ、そんなに慌てなくていいから……」

 アルマが頭を掻いた。


「へぇ、十分でまともな家が出来ちゃうんだね」

 新築間もない人間サイズの家に入り、アルマが関心したような声をだした。

「……気合い次第で二分で」

「気合いは止めなさい。魔法って、そういうもんじゃないから」

 アルマは僕を抱いてベッドに座った。

「まあ、住むところは確保したね。どうするつもりなの?」

 アルマが僕を優しく撫でた。

「うん、使い魔の儀式をやっていいって、師匠から許可が出たから喜んでやっただけで、特になにかしようなんて考えてなかったよ。基本的にこの村からも出ないしね、師匠が教えてくれるから、そういう場所があるんだって程度は知ってるけど」

 アルマが笑みを浮かべた。

「それはいいことを聞いたぞ。私は旅人だからね、そこら中歩くのが好きなんだ。こんなの使い魔にしちゃったら、旅に出るしかないぞ?」

「……怖いよ。僕たちって自分が知っている所にずっといるのが好きなんだ。好き好んで、よそにいくなんて」

「まあ、猫だもんね。そういう所はあるか。まあ、私がついてるんだから安心しなさい。今すぐなんていわないよ。私ももう少しこの村を知りたい。これも、旅だからさ」

 アルマは笑みを向けてきた。

「分かった。この村だったら僕が案内できるよ。なにもないけどね」

「それも旅だよ。なにかるんだからさ。よし、今日は休ませて。なんか、目眩がね」

 僕は素早く呪文を唱えた。

「うん、僕と使い魔契約した影響だね。明日には収まると思う。ごめんね」

「いいってことよ!!」

 アルマは笑みを浮かべた。

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