エピローグ
第76話 黒猫王子はメイドと踊る I
「……さて」
ガチャリと。
クロさんは、自室の鍵を閉め。
あたしを少し強引に抱き寄せると。
奪うような、キスをしてきた。
「これでやっと、準備が整った」
「……準備?」
両頬に手を添え、そっと唇を離してから、彼が言う。
「君を全部、僕のものにする準備」
「…………っ」
あたしの肩に顎を乗せ、ドレスに合わせて身につけていたネックレスをゆっくりと外される。
「二週間かぁ〜、わくわくするなぁ。こんなに休めるなんて、わざわざ刺されに行った甲斐があったよ」
「……え?あれ、わざと刺されたんですか?」
「そうだよ。だって怪我でもしなきゃ、君とゆっくり休めないじゃない」
「それじゃあ……最初から、怪我をして長期休暇を貰うために、あんなことを…?」
「うん。だからこそあの子には、剣の錬成と扱い方を徹底的に教え込んだ。裂傷なら、君が必ず治してくれると信じていたから…」
「ばかっ!!」
あたしは、ありったけの力を込めて。
きつく、クロさんの身体を抱き締めた。
「……死んじゃったらどうしようって思いました。このまま目を開けなかったら、って……もうあんな、馬鹿な真似はやめてください。クロさんがいなくなったら、あたし……」
そこから先は、涙がこみ上げてきて言えなかった。
あの時は、傷を癒すことに必死だったけれど。
今、この腕の中にある体温の安心感と。
彼を失っていたかもしれないという恐怖心に、今頃になって襲われる。
クロさんは、あたしの頭をぽんぽんと叩くと、身体を離して顔を覗き込む。
「ごめんね。もう、無茶はしないよ。でも…」
あたしの顎に指をかけ、持ち上げてから。
くすっ、と笑う。
「この泣き顔を見るためなら……たまには無茶したくなっちゃうかも」
「な…なに言っているんですか。これ以上泣かせるようなこと、しないでください!」
「え〜だって。君が泣いてるのを見るとさぁ」
眼鏡越しに、夜空のような色をした瞳を近付けて、
「……すっごく、欲情する」
「…………は…?!」
声を上げると同時に。
あたしの身体は、ベッドの上に放り投げられていた。
その上にクロさんが跨り、
「…フェレンティーナ」
「は、はいっ?!」
ゆっくりと、自身のワイシャツのボタンを外しながら。
「君を、抱くよ。……いいね?」
見ているだけで全身が火照るような、妖艶な笑みを浮かべて。
「僕の
囁く。
「もう昨日までの君には戻れないくらい、トロトロにしてあげるから……覚悟していてね」
あたしは、脳内で
両手で、顔を隠すようにして。
「……………はい」
小さく小さく、答えた。
それからの二週間。
あたしは、人生において最も幸せな時間を、クロさんと共に過ごした。
彼の言う通り、ゆっくりと、じっくりと時間をかけて。
指を絡め、舌を絡め、肌を重ね。
何度も、何度も。乾く間もないくらいに。
心も身体も、とろとろに溶かされて──
全部全部、彼のモノにされてしまった。
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