第72話 黒猫のきもち III


 恥ずかしさのあまり、あたしはへなへなとへたり込む。


 だめだ、顔を上げることができない。

 なに…なんなの、コレ……こういうタイプの刑罰……?



 羞恥心に打ち震えていると、再び国王陛下が、


「クロ、話が違うじゃないか」


 そうクロさんに投げかける。すると彼も床に座り込んだまま、


「違くないよ。仕事に片がついたんだから、もうしたっていいじゃないか」


 ほっぺたを少しだけ赤らめながら、陛下を睨みつけた。

 ……ん?どういうこと?


「ふむ…確かに、今のフェレンティーナさんの話だと、今日に至るまではちゃんと我慢していたみたいだね」

「そうだよ。だからもう、いいでしょ?」

「んー……あの件も解決したし、良しとするか」


 顎に指を添え、思案するように天井を仰いでから、頷く国王陛下。


「あの……これって、一体なんの話をしているのですか?」

「ああ、ごめんね。ええと、実はね」


 あたしの問いかけに、陛下はにこにこと笑いながら、



「二ヶ月前、クロが『他国から女の子を連れて来て、ここへ住まわせたい』って直接打診をしてきたんだ。

 そんなこと初めてだったから、今君にやったみたいに、本心を喋らせてみたんだよ。

 どうせ珍しい精霊の持ち主で、研究したいから〜、とかって言うんだと思っていたら……こいつ、なんて言ったと思う?」



 そこまでで、クロさんが「ばか!言うな!」とジタバタ暴れ始めるが。

 国王陛下は……その美しいお顔を、それはそれは楽しそうに歪ませて、



「『レンちゃんをずっと側に置いて、いつでもちゅーできるようにするために決まってんじゃん』、って答えたんだよ。面白いでしょう?」



 ……へ………


 あたしは、自分の顔が火照るのを感じながら、口をぽかんと開ける。

 ルイス隊長とベアトリーチェさんが、笑いを堪えるように「んんっ」と咳払いをするのが聞こえた。



「あの、精霊研究以外に執着を見せないクロがそんなことを言うなんて、びっくりでさ。

 本当に好きな相手なら、連れて来ること自体は構わないのだけれど…でも、公私混同して仕事を疎かにされるのも困るだろう?戦争が終わったばかりで、まだまだバタついていたし、貴族たちに不穏な動きも見られた。

 そんな中で、四六時中ちゅっちゅされても……ねぇ。だから」


 すっ、と。

 今度は、クロさんに向けて指をさし。

 その身体に、魔法をかけながら。



「貴族たちの問題行動を解決するまで、フェレンティーナさんとの粘膜接触を禁じたんだ。破ったら、愛しの彼女をイストラーダへ強制送還。毎週会議の度に本心を語らせて、ちゃんと我慢できているかチェックしながらね」



 ね…粘膜接触……

 あたしは更に身体を熱くしながらも、クロさんを見つめる。


 そうか。それで。

 あたしとなるべく接触しないように、わざと突き離していたのか……

 まさか、あたしの強制送還の危機と戦っていたのが、彼の方だったなんて。

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