第63話 明かされる真実 II
「なっ…」
アリーシャさんのその言葉に、驚愕の声を上げたのはルイス隊長だった。
あたしも、驚きを隠せなかった。だって、それってつまり…人身売買……?
ルイアブックは、先の大戦であたしの母国・イストラーダ同様、このロガンス帝国に負けた国。
そこから、人を買ったということ……?
そして今ので、国王の魔法の能力もなんとなくわかった。
恐らく、これは……
質問したことに対し、必ず相手に答えさせる"精神魔法"。
アリーシャさんの、あの困惑した表情……魔法をかけられた相手は、意思とは関係なしに本当のことを話してしまうようだ。
「えっ、お金で君を?そもそも他国の人間を養子に迎えるには、国から承認をもらわないとできないはずなんだけど…」
クロさんがまたまた芝居掛かった口調でおどけてみせる。
国王は再び手を掲げ、
「今のお話は……事実ですか?」
『書名』した指先を、今度はアリーシャさんの親族だったはずの男……スティリアム卿へと向ける。
すると彼も、その質問に対し、
「…事実です。この娘を、国に隠れて、ルイアブックの孤児院から買いました」
答えてから慌てて両手で口を押さえるが、もう遅い。ここにいる全員が、それを聞いてしまった。
国王は、少し神妙な面持ちになりながら、
「どうして、そのようなことをしたのですか?」
「…我がスティリアム家には一人息子がいるのですが……身体が弱い上に、魔法の能力も戦闘向きではなく。とてもじゃないが、軍部になど入れられない。一族の繁栄のためには、なんとか親族から帝国軍従事者を出したくて、それで…」
「優秀な人材を、他国で漁った、と」
「はい」
自分が話している内容に顔を真っ青にしながら、しかし動いてしまう口を閉じられないといった様子で、スティリアム卿は目を泳がせまくっている。
しかし。
そこであたしは、気がつく。
青ざめた顔で、目を白黒させているのが……彼だけではないことに。
「おやおやぁ?」
ニタッ。
クロさんは楽しそうに口を歪ませて、
「今のお話……身に覚えがある方が、他にもいらっしゃるようですね」
タンッ、と開会の挨拶の時に立っていた舞台へと上がり、
「王に質問されてしまう前に、ご自身の胸に手を当て聞いてみたほうが良いのでは?ねぇ、みなさん…?」
そう、悪魔のようなカオをして、笑う。
……まさか。
あたしは再度、周囲を見回す。すると。
そこにいる、招待客……選ばれた学生の親族としてここへ来ていたはずの者たちが。
全員、顔を青くしていたのだ。
「あ……」
だから、か。
この舞踏会へ招待する生徒のプロフィールを抜き出した時。
幼少期の経歴を記入する欄が、おもしろいくらいに皆真っ白だったのは。
書かなかったのではなく……書けなかったのだ。
我が子ではない、金で買った他所の子だったから。
つまりクロさんは、最初からそのことを知っていて。
不正な人身売買をした貴族たちを一斉に粛清するために、この舞踏会へ招いたということか。
そしてその起爆剤として、より強い怨恨の念を持つアリーシャさんを利用した…
それにしたって彼女は、何故スティリアム卿ではなく、この国に……ルイス隊長に剣を向けたのだろうか。
「この国に連れて来られるまでの経緯を、詳しく教えてもらえますか?」
再び、国王がアリーシャさんに尋ねる。
まだ魔法の効果が続いているようで、彼女はもう諦めたような表情で。
その口を動かし、真実を語り始めた。
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