第64話 明かされる真実 III
「…あれは、二年前のことだ。戦争が、始まったばかりの頃。
私の生まれ育った村は、フォルタニカ共和国のやつらに襲われ、壊滅した。
瀕死の状態で倒れていたのを助けてくれたのが……そこにいる、ルイスだった」
スティリアム家に買われるまでの経緯を語り始めたアリーシャさんは。
そう言ってから、静かにルイス隊長へと視線を送った。
会場にいる人々も、一斉に隊長の方を向く。
今の話……まるで、あたしの時と同じだ。
「彼は二ヶ月ほど、隊に同行させる形で私を
敵国の人間だというのに、親切に接してくれて……嬉しかった。とても、感謝していたんだ。
そのまま私のことを、身寄りのない子供たちが暮らせる施設へと送り届けてくれた。十四歳の誕生日もそこで迎え、平和に暮らしていた。
しかし……」
そこで、一度。
彼女は言葉を止め、俯いてから。
「戦争が終わって、しばらくして……ロガンスからスティリアム家の者がやってきた。
そして、『使える魔法を持つガキはいないか』と施設の職員に詰め寄ったんだ。敗戦国なのだから、言うことを聞け、と……
金で
そこからは……地獄だった。スティリアム家に連れて来られてからは、毎日毎日、魔法の特訓と称して体罰を与えられ、数ヶ月後に入学する魔法学院で成果を上げないと殺す……と、言われ続けた」
あたしは。
聞きながら、吐き気を感じた。
ひどい……あまりにも、ひどすぎる。
周りを見ると、他の生徒たちも苦しげに顔を歪めたり、涙を流していたりする。
……恐らく皆、同じような経緯を経て、ここにいるのだろう。
「ルイスに救われて、ロガンス帝国には感謝していたんだ。
なのに…戦争に勝利し、私が魔法を使えるようになった途端、手のひらを返すような仕打ちを受けて……この国を、恨んだ。
力をつけて、スティリアム家諸共めちゃくちゃにしてやろうと決めた。そしたら……」
くしゃっ、と。
彼女の顔が、今にも泣き出しそうに歪む。
「今日……ルイスがいるのを、見てしまって。気持ちが、押さえられなくなってしまった。
どうして?優しい国だって、信じていたのに…って。
こんなことになるなら、あの時、助けられずに死んだ方がマシだった。だから……」
だから……ルイス隊長に剣を向けたのか。
どんなに、辛かっただろう。絶望したことだろう。
戦争によって家族を…故郷を奪われ。助けられたと思ったら、都合よく利用され…体罰まで与えられて。
裏切られたと、そう思っただろう。
あたしも同じように、この能力に目をつけられフォルタニカの兵に連れ去られるところだったのだ。
希少な精霊を持つ、実験体にするために。
それだったら……死んだ方がマシだと、あたしも思っていたはずだ。
「みなさん……今の話を聞いて、どう思われますか?」
国王が、尋ねる。
我が子可愛さに、他国から有能な子どもたちを買った、貴族たちに向けて。
『……………』
彼らは皆、目を逸らし黙り込んだ。
国王は流れるように『署名』を記し、一番近くにいた別の男に魔法をかける。すると、
「…敗戦国から搾取して何が悪い!負けた方が悪いんだろう!天下のロガンス帝国だぞ?何をしたって許されるんだ!!」
途端に醜い内心を晒されて、慌てて口を押さえる。
「……それが、本心ですか」
国王は、酷く心苦しそうに目を伏せた。
「つくづく、自分の能力が嫌になります。他人の心の内を暴いたところで、いいことなど一つもありません」
「よく言うよ。その能力、めちゃくちゃ乱用しているくせに」
なんて、クロさんがジトッとした目を向け呟くが。
その男の本音に強い反応を示したのは、生徒……この国に無理矢理連れて来られた、子どもたちだった。
怒りや憎しみを露わにした表情で、貴族たちを睨みつけ、
「今までよくも、一族繁栄のための道具にしてくれたな……」
「こんなところになんか来たくなかった……本当の家族のところへ返してよ!」
そう口々に言いながら……『署名』を始める。
いけない。仮にも彼らは、この国に連れて来られてしまうほどに優秀な能力を持っているのだ。
そんな人間が、一斉にその力を解放したら……!!
しかし、彼らを傷付けたくはない。
どうすれば…どうすればいい…?
ルイス隊長や軍部の面々が、戸惑いながらも手を構えた……
その時だった。
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