第三夜 常緑樹



真っ暗窓の向こうは

すでに物置と化したベランダがあって

その向こう側には

もさもさとした常緑樹が植えてあった



これを機会に名前を調べてみたけど

いくらもクリックしないうちにやめた

それぐらいこの常緑樹のことが

嫌いだった



「常緑樹」というくらいだから

当然 四季を問わず

その葉を青々と茂らせ

ほんの少しずつ橙色に枯れて落ちる



花をつけることはなく

実をつけることもない

高く 太ることはあっても

小さく 痩せることはない



夏の熱射にも平気な顔をして

冬の大雪にも枝を折らすことはなく

好き勝手にその枝を伸ばし

好き勝手に粘土細工みたいな葉を茂らせる



おかげで

せっかくの南向きの僕の部屋の日照を奪い

窓から見える風景はどうでもいいものながらも

その半分以上を遮った



たくましい といえばたくましいけど

そのたくましさを妬んだ

変わらない安心感 といえばそうでもあるけど

変化のない毎日を象徴しているように思えた



クリアな空に浮かぶ満月でもない限り

夜にその姿を現すことはなかった

その代わりに

変化のない平凡な僕の顔が窓に映るのだった



その年頃の多くの若者がそうだったのかどうかは

僕にはわからない

でも

僕は確実に変化を望んでいた



このまま此処に居たのでは

いつか この常緑樹に覆いつくされてしまう

そして 長い時間をかけて

いっしょにぶくぶく太っていくんだ



見晴らしが今以上に悪くたっていい

もう 煩わしさと引き換えの安心感は要らない

窓から見える風景がこの“緑”じゃない所へ行きたい

この部屋を この街を出たい



鏡になった真っ暗窓に向って何度も呟く

僕に見えていないことをいいことに

夜でも緑色をしているこの木に向かって

何度も心の中で叫ぶ




♪♪♪

TOTO「99」

https://www.youtube.com/watch?v=qhw-XlTMB5I

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