パッションルーラー そのⅡ

「…なさい! 起きなさい、てば!」

 俺は真沙子に体を揺さぶられていた。

「は? 何で俺、こんなところにいるんだ?」

 ここは、校庭か? おかしい。靴を履き替えた記憶はない。それに懐にも手にも、水鉄砲がない。

 こんなこと、生まれて初めてだ。

「粒磨! 説明は後よ、いい? あなたが最後に会ったのは誰、なの!」

 状況が全く飲み込めないのに、説明してくれないのかよ。俺はぼやいたが、聞き入れてもらえなかった。

「最後って、確か職員室の横に、小さい部屋があったろ? そこに呼び出されて…」

「だ、れ、に!」

「確か、妃先生…だったはずだな? あれ俺、確か引っ叩かれて…」

 俺は頬を撫でた。腫れてはいないようだが…。

 不思議と、ビンタを受けた後の記憶がない。

「もしかして俺、洗脳されてたのか?」

「そうみたい、だわ。だから他のみんなを襲った、のよ。そして黒幕は、妃先生、なのね?」

 みんなを襲った? そんなことを俺が? 頭の中がクエスチョンマークでいっぱいで、ショートしそうだ。

「おいおい! 黒幕は狩生先生のはずだろ? 何で妃先生が出てくるんだ?」

 流石に納得しなければ、俺も動く気になれない。真沙子は俺の問いかけにやっと答えてくれた。

「いい? あなたは洗脳されて、クラスメイトを襲った、のよ。わたし以外はみんな、やられたわ。あなた、前に言ったわよね。わたしたちを操っている超能力者がいて、勝負に勝てば洗脳が解けるって」

「だからそれが、狩生先生で…」

「じゃああなたは狩生先生に負けたの?」

 俺は首を横に振った。すると真沙子は、

「やはり、ね。きっと妃先生は真の黒幕、だわ。どんな超能力かはわからないけど、あなたを洗脳していた、のよ」

 その後も丁寧な説明を俺は聞いた。


 俺と真沙子は校舎に戻った。

「作戦を確認するぜ。俺はまだ洗脳されたふりをする。全員負かせたから手始めに真沙子を連れて行くことにした。で、いいんだな」

「ええ」

 他のみんなはこの作戦に加われなかった。俺に打ち負かされたせいだと。そんなことしていたのか、俺は。

 俺は真沙子の肩を担いで、保健室に向かった。

「先生。言われた通りに全員、やっつけました。まずは真沙子を」

「ご苦労様です、粒磨君。あなたならやってくれると思っていました」

 先生は油断している。洗脳を確かめる術がないからか。

「真沙子は気を失っています。ベッドに寝かせましょう」

 俺はそう言うと、真沙子をベッドに下ろした。この時、俺の前面は背中で死角になっている。既に新しい水鉄砲を手に握り、真沙子の合図で振り向いて撃つ。

「ところで粒磨君。その手に握っているのは、何ですか?」

 何、気づかれている?

「私は先ほどの校庭での攻防を見ていました。あなたの水鉄砲は二つとも、溶けたはず。さあ、早くそれを見せなさい!」

 一筋縄ではいかないようだな。俺はおとなしく振り向くと、水鉄砲を見せた。

「それを捨てなさい」

 落ち着け、真沙子が隣にいるんだぞ…。ここは言う通りにしよう。

 気をつけなければいけないことは、妃先生に触れられないこと。きっとまたビンタを受けると、洗脳される…。

「真沙子さん。あなたも寝たふりはやめなさい」

 真沙子は目を開けると、ベッドから降りた。

「いいでしょう。計画は何度でも遠回りでも構いません。今回は二人で始めましょう」

 近づいて来る………。


 だがこれは、読めていた。先ほどの真沙子との会話を思い出す。

「もし妃先生を騙せなかったら、どうするんだ?」

「いい考えがある、わよ。あなたは先生に言われた通りに行動、する。そしてタイミング良く撃つ、だけだわ」

 それだけかよ、と俺は突っ込んだが、

「でもその前に、水鉄砲の中身は仕込んでおく、わよ」

 としか言われなかった。

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