アクアバレット そのⅥ

「この水は電気をよく通す。それで全身をコーティングした。だから自分に向けて水鉄砲を撃った。雨も降っているから、全身を水で包むのは簡単だった。そして流れた電気は、全て地面に逃がしてやった」

 その発言に、小豆沢は返す言葉を探せなかった。

「さあ時間だ。雨も止み始めている。全ての雨粒をくらえ!」

 周りに降り注ぐ雨という雨が、全て小豆沢に向かって進む。これを防御する術は…。

「なら俺も、お前の真似をしてやろう」

 あった。小豆沢は自分の体の表面に電気を流すと、雨粒を全て弾いた。この発想は、直前の粒磨の行動を参考にしたものだった。自分で操っている電気なので、感電することはない。小豆沢だけがなせる技である。

 雨が完全に止んだ。同時に太陽光が校庭を照らす。二人とももう、雨も雷も使えない。ここまでくれば、後は己の信念のぶつかり合いである。

「最後はシンプルに決めてくれるわ、粒磨ぁ!」

「俺が負けると思うか、小豆沢!」

 激しくぶつかり合う二人。水が、電気が、相手の体目掛けて解き放たれ、相手に弾かれ、飛んで行く。

「く!」

 先に小豆沢のスタンガンの電気が切れた。十分に充電していたものの、激しい戦いに最後まで耐えることができず、バッテリーが音を上げたのだ。

「……」

 だが同時に、粒磨の水鉄砲も空になった。

 そして次の行動が、明暗を分けた。

 小豆沢はポケットから電池を取り出そうとした。だが粒磨は足元の水溜りを使って、水の柱を即座に出した。

「何!」

 これに驚き、後退する小豆沢。さらに水の柱は生まれる。

「おのれええぇ……」

 ついに小豆沢に、水の柱が当たった。大きく上に飛ばされる小豆沢を狙い、粒磨が空の水鉄砲を向ける。その容器の中に、水溜りの水をアポーツで入れ、水の球を撃つ。

「馬鹿な…!」

 自由な身動きの取れなかった小豆沢に、防ぐ方法はなかった。小豆沢は吹っ飛び、地面に叩きつけられた。

「これで最後の一人」

 粒磨は真沙子に目を向けた。対峙する真沙子には、勝ち目がなさそうである。

だが彼女は違った。この状況で勝つ気でいるのだ。

「わたししか残ってない、のね。でも負ける気は全く、ないわ!」

「その自信の源を、今絶ってやる!」

 粒磨は構える。炎と水。本来なら、自分が負ける要素がない。

 真沙子もパイロキネシスで炎を生み出すと、自分の周りを赤く染め上げる。水溜りの水が、瞬く間に蒸発していく。

「蒸気になってしまえば、操ることはできない、のよね? ならば簡単、だわ」

 真沙子の行為は簡単だ。生み出した炎でドームを作るだけ。その中に粒磨を閉じ込める。それしかしなくていい。周りには十分な量の炎が既にある。

「なるほどな。こんな少量の水はすぐに蒸発するというわけか…」

 粒磨は炎に向けて水を撃ったが、無駄であった。

「じゃあ覚悟、しなさい!」

 炎が粒磨を包み込む。だが粒磨は走り出していた。

「お前も一緒だ!」

「うっ!」

 真沙子の首を掴むと、そのままジッとする。熱さでへばるのは、自分よりも濡れていない真沙子の方だ。粒磨にはその確信があった。

「ううう…」

 炎が弱くなっていく。ドームに隙間が生じた。それを見た粒磨は、真沙子を放して自分だけ、そこから脱出する。

「これで、終わったな」

 粒磨がひと息吐こうとすると、

「ええ、そうよ。終わり、だわ」

 真沙子の声が聞こえた。

 なんと真沙子は、ワザと炎を弱めたのだ。そうすれば粒磨が逃げることを承知の上で。そして粒磨の水鉄砲を狙う炎を、ドームの外に隠しておいた。

「熱っ!」

 当たった。炎が粒磨の両手を包み込むと、粒磨は無意識のうちに手を放した。そして地面に落ちた水鉄砲は、激しく燃え始めた炎に飲み込まれ、あっという間に形が変わっていく。

「真沙子! 最初からこれが狙いだったのか!」

「そうよ? だから小豆沢には頑張ってもらった、のよ?」

 全ては真沙子の作戦通り。

 粒磨の水が炎を消せないことはわかっていた。温度に差がありすぎるからだ。だから炎で包めば、必ず逃げ出す。その先に炎を配置させておく。

 唯一の不安は、雨が降り出しそうなこと。だが小豆沢のおかげで、雨は通り過ぎた。

「終わらせる、わよ!」

「なにをおおおお!」

 真沙子が炎の渦を作ると、粒磨に飛ばす。粒磨も負けじと水の刃を作り飛ばす。だが炎の渦を切り裂けなかった。水の温度が上昇し、すぐに水蒸気に変わり、体積が減少したのだ。

「真沙子おおおぉおおおお!」

 雄叫びを上げる粒磨。だが既に遅い。真沙子の作戦は、最終段階に移行している。

 このままでは、粒磨は火傷を負ってしまう。だから加減する。

「えい!」

 炎を消した。

「こんなところで手を抜くのか? そんな情けはいらん!」

「そんな気はない、わよ? これも作戦、だわ!」

 炎は消えた。だが熱気は消えていない。

 真沙子の切り札。それは熱波だった。

「ぐああ………」

 熱さを保つ空気が粒磨にぶつかり、そして通り過ぎる。この一撃を、粒磨は耐え切れなかった。その場に崩れ落ちた。

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