スフィアメモリー そのⅥ

 不意に、俺の体が後ろに飛んだ。

「な、何? いつの間に、記憶球を?」

 どういうワケかは不明だが、俺には記憶球が見えてなかった。後ろに飛んだということは、前からぶつかって来たはずなのに…。

「危ないところだったよ、粒磨君。でもね、見落としていると満点は取れないものだ」

 何の話だ? 今の俺に、見落としている点が? 水の柱での攻撃は上手くいったし、その後の追撃を迷っていただけなのだが?

「君の記憶から、『水』自体は消せない。短期間の改ざんでは、長期にわたる記憶の改ざんは不可能だから。君はきっと超能力を自覚したころから、水が自分の周りで欠かせないものであったのだろう? 何年も遡って消せないのが弱点ではある。だがもっと範囲を狭めれば…例えば、水の球体とか。それなら記憶から消すことは可能だよ」

 何を言ってるんだ、先生は? そして先生が言い終わると同時に、大量の水が何もない空間から、地面に落ちた。先生の超能力は、水も操れるのか?

「もっとも私の言っていることを理解できないと思うがね。だって頭が認識できなくなってしまうから。でも安心したまえ、短期間の改ざんは一個だけしか行えない。だから君は、再び記憶球を目にすることができる」

「…」

 先生の話を軸に考えると、こうか?


 俺はおそらく、最初に『記憶球』に関する記憶を消された。そして次に、何かに関する記憶を消された。その代わりに、『記憶球』の記憶を取り戻した?


 じゃあ代わりに消された記憶って、何だ?

 俺があれこれ考えていると、先生が距離を詰めてくる。

「考えてる場合じゃねえ! 迎え撃たねえと!」

 俺は水を、水鉄砲の銃口に集中させる。作るのは、水の刃。これで記憶球を切り裂いて俺の身を守る!

「これでどうかな?」

 記憶球が、先生の手から放れると同時に弾け飛ぶ…。違う、これは散弾だ。俺にのみ向かって、小さな粒上の記憶球が飛んで来る!

「そんな小細工、通じないぜ!」

 水の刃で最小限の動きでこれらを弾く。

「今度は俺から行くぜ!」

 俺は水の刃を飛ばした。先生は記憶球で防御した。

 戦いは互角…。俺の全身に力が入るのを感じる。一気に叩く!

 アポーツだ。俺は大型のウォーターガンを出現させると、一気に放水した。威力で押し切ると見せかけて、所々に水の刃を仕込む。見た感じだとそれには気づけない。

「ううむ、何かあるな…」

 先生も違和感を覚えているようで、途中から記憶球を撃つのをやめ、体を動かして避け始めた。

「どうしたんだよ、先生? その程度で俺に勝つ気なのかぁ? 高校生に負けたら恥ずかしくねえか、表歩けねえぜ!」

 今の俺には、この方法しかない。そのため、仕込まれた水の刃に勘づかれてはいけない。だから俺はあえて感情を逆なでする発言をした。

「別に…。私は君に負けてなどいない。それに敗北は恥じることではない。逆だ。寧ろ、それを積み重ねて学ぶべきだ」

 今はあんたの教育論は聞いてねえよ! 強がっているのはわかってるぜ、見りゃあよ。

 このままウォーターガンで戦ってもいいが、これ自体が大きすぎるから動きがバレバレだ。だとするとやはり、他の攻撃手段が欲しい。幸い大型のウォーターガンとはいえ片手で持てないわけではない。俺は右手でそれを持つと、左手には水鉄砲を握った。この二つで攻める。

 先生の動きは捉えられないことはないから、ウォーターガンで動きを追うように水を撃つ。そして動きを予想して、動くであろう方向に水鉄砲で撃ち込む。こでは簡単な方法だが、確実に先生を追い詰める。

「……そのように式を立てるか…」

 いくら記憶球で防御できるとしても、それが無限なわけがない。俺の水も、そろそろ限界なんだし…。だからここで勝負を決める!

「くらえ!」

 俺は水の刃を飛ばした。素人目には明後日の方向に見えるかもしれないが、俺はちゃんと計算している。そして見事、その方向に先生が動いた! 予想射撃が、当たった。

「うぅ…」

 記憶球の防御が間に合わず、先生の手の甲は切り裂かれた。暗い褐色の血が、そこから少し噴いた。

「よし! いける、いけるぞ!」

 これで終わらせる。俺がそう確信した瞬間だった。


 俺に、後ろから記憶球が当たった。

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