スフィアメモリー そのⅦ

「そんな馬鹿な、いつの間に…?」

 記憶球を放つ動作は、一切見せなかった。動きは必要なくても、今の先生に、俺にバレずに記憶球を飛ばすなんて不可能なはずだ。

「一発だけ…。君が撃ち落とさずに避けたものがあってね、君は無害と判断したようだが。遥か彼方に向かう前に、それを私の方へ戻した」

 何だと…? そんなことができる? しかも、この状況に陥ることを読んでいた…?

 いや待て。今俺が考えるべきことはそれじゃない。何の記憶を改ざんされたかを考えなければいけない。

「くっ…。かなり厄介だぜこれは。一々何を失ったのか、把握しないといけないとはな…!」

 今俺の手元には、水がない。だから先生の次の記憶球は撃ち落とせない。となると動いて避けるしかないか。でも地面には、かなりの水が存在している。ならば水の柱はどうだ? いや、同じ手が何度も通じるとは思えない。手元に水がないから、水の球も刃も作れない。

「さあ、どうするつもりだい、粒磨君? 今の君には、水鉄砲やウォーターガンの感触すら、いいや言葉の意味すらわからないだろう? 攻撃手段を失った、言わば、筆記用具なしに試験に臨むようなもの。それではまず、私には勝てないだろう」

 確かに言う通りだぜ。手元にないと、かなり不利だ。地面の水は警戒されているだろうからな。一番扱いやすいところに水がないのは、かなり致命的。

「では、もうチャイムを鳴らす。終わらせよう、粒磨君!」

 先生が走り出した。俺も何か、攻撃する手段を見つけないければ! このままでは確実に仕留められる!

「くそ、どうする?」

 水はないのか…? どうして俺の近くに水がないんだ!

 いや、俺よ落ち着け。水なきところに生物は生まれない。生命の源である水は、常に周りに存在するはずだ…!

 俺は、ある手段に出た。水がないなら、補給すればいいだけの話だ。

「ぬおおお!」

 俺は、膝の絆創膏を剥がした。そして指で傷口を掻きむしる。

「何のつもりだ?」

 今の問いかけに答えてる暇はない。とにかく急げ!

 俺の膝から、血がドバっと出る。普通なら「悪化した」って言うんだろうが、俺は違う。

「血も水と同じだ。少し粘り気が強いが、れっきとした液体だぜ!」

「なん…」

 元々の血圧が存在するためか、血で作った水の球は、かなりの勢いで先生の記憶球を次々に撃ち破る。そして先生に着弾する。

「うぐわ!」

 くらった瞬間に、大きく吹っ飛ぶ先生。

「よ、ようし…!」

 流石の俺も、自分の血をこれ以上失うワケにはいかない。だからこれ以上、血で水の球は作らない。ここまで来たのなら、もう水の柱で十分だ。

「今度こそ本当に終わりだぜ、くらいな…!」

 先生に向け、水の柱を大量に出現させた。

「な…馬鹿な………。私が………?」

 先生はそう言うと、立ち上がろうとした腕を崩した。

 同時に、俺がさっき失った記憶も取り戻せた。

「水鉄砲の記憶を改ざんして消したのか…。それは一番恐ろしいぜ…」

 冷や汗が流れるのを感じる。


 やっと先生が立ち上がったので俺は、

「先生。俺はあんたの教育を邪魔しようとはこれっぽっちも思ってないぜ? でもよ、超能力者として立ちふさがるなら容赦しないぜ? 次に誰かの記憶を書き換えてみな。全力で戦わせてもらうぜ!」

 と言い捨てて立ち去った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る