スフィアメモリー そのⅢ

 先生の開いた手から、白い球体が出現した。

「またアレかよ! あのすぐ逃げる球体!」

「私はこれを記憶球と呼んでいる。君もそう呼んでくれ」

 そんなことは今必要じゃないが…。俺はその白い丸からは、目を離さない。攻撃が来るとしたら、あの玉が飛んでくる…!

「そうくると思ったぜ!」

 俺は真上に向かって、水の球を撃った。既に白い球体…記憶球は俺の頭上に出現していたのだ。それが俺の頭に当たる前に、撃破できた。

「勘がいいな」

 勘でも運でもない。ここにきてワザワザ、自分の超能力を見せるだけなんてことはしないはずだ。先生の一挙一動には意味がある。それが嘘であってもだ。

 俺は銃口を先生に向けた。

「武炉は最初の一撃をワザと外してたけどよ、俺は違う。これは当てるぜ、先生?」

「そうしたいのなら、それで構わないよ」

「じゃあ、お言葉に甘えて!」

 俺は撃った。だが、

「私の超能力では、記憶に質量を持たせることができる。植え付けたい記憶を、球にして射出することが可能」

 先生の目の前に現れた記憶球に水がぶつかると、両方ともはじけ飛んだ。

「相殺…」

 どうして記憶があのように球を成すのかは不明だが、先生の超能力ならできるらしい。しかも俺の水と、同威力。アレに当たれば、吹っ飛ぶとともに負ける…。

「ん? おかしいな…」

 記憶の改ざんは、勝った時だけしかできないはずでは? あの記憶球を今俺がくらっても、まだ負けたわけじゃないから、意味がないのでは?

 もしかしてそれが、先生の言った全てか? 負かせた時以外でも、記憶を書き換えられる?

「おや、わかったような顔をしているな。それが正解かどうか、答え合わせをしてみよう」

 先生がそう言うと、両手に記憶球を出した。

「この片方は君が思っている通り。これは私が勝利したときにしか、働かない。だがその分、相手が条件を満たさなければ永遠に操作したままだ。ではこっちは?」

 片方を前に出したので、俺は答えた。

「おそらく、短い時間だけ有効な記憶操作…。それに勝負はいらない」

「その通り。短時間でよく、正解にたどり着けたね」

 自ずと見えてくるぜ、そんなことは。

「質問があるけど、いいか?」

 俺は聞きたいことがあったので、そう発言した。

「ぜひとも」

「その記憶は、共有できるのか? 鍵下は武炉の敗因を知らなかったみたいだが?」

「私はできる。だが他の人には不可能だ。武炉君が負けた後、私は鍵下君に負けたことすら、教えていない。鍵下君なら全てできると思っていたし、今までも任せっきりだったからね」

 聞くだけだと、先生だけではあまり強くはなさそうだ。だがよく考えれば、あれだけの実力の持ち主である鍵下の記憶を書き換えずに配下に置いておき、反逆もされていないことを考えに入れると…思わずゾワッとする…!

「だがよ、当たらなければ意味ないぜ! 全部ぶち壊してやる!」

「意気込みだけは褒めてあげよう。しかし方程式は、勢いだけでは解けない。君にこの戦いという数式を、証明できるかな?」

 簡単なことだ。ただ打ち負かせばいい。水を使ってシンプルに。今まで俺がしてきたことの繰り返し。できないわけがない! 

「とうっ!」

 水の球を撃った。しかも魔法の弾丸だ。思いもよらぬところで曲がるそれに、先生は反応できない…。

「何?」

 反応している…。しかも的確に。水の球は着弾寸前に、生じた記憶球に弾かれた。

「予測不可能な軌跡を描くとしてもだ、最後は私に着弾しなければいけない。ならば簡単。その直前に、着弾点で防御する。これだけ。証明完了」

 この先生は…真沙子と同じタイプだ。操る超能力が物に依存しないため、予備動作がなく寸前まで行動を把握できない…!

「どうしたのかな、粒磨。君の表情が青ざめているぞ。それも水みたいに」

「くっ!」

 これは、間違いなく苦戦する。予想外の一撃を叩きこまなければ、通用しない。だが俺が考えることのできるその一手は、先生なら秒で予想できてしまう。

 だが降参という選択肢はない。俺は先生に勝たなければいけない!

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