スフィアメモリー そのⅣ

 俺は広い校庭に逃げる。見通しが良いこの空間なら、記憶球がどこから飛んでくるのか、わかりやすい。だがそれは、俺の攻撃も読まれやすいというリスクもあるが…ほとんど通じないみたいだし、まあいいだろう。

「これは…どうだ!」

 俺は水の刃を作ると、来た道を反転し先生に突っ込んだ。

「危ない危ない」

 記憶球を壁に変えて、防御する先生。俺の水の刃が、根元から折れる。

「硬い!」

 この刃が、通用しないだなんて…。俺の心も折れそうだ…。

「はっ!」

 記憶の壁が、俺に向かって倒れ掛かる。これをくらうと…。

「うおおおお!」

 俺は水を連射した。壁に穴が開くと、そこをくぐり抜けた。先生はその先で、記憶球を俺に向かって投げる。

「準備が…。間に合わせなければ!」

 水の球ならアレを弾くことができる。だがすぐには作り出せない。俺はまず水を散弾させた。そして散弾の衝撃で記憶球の速度が落ちるのを確認すると、水の球で貫いてやった。

「質量を持ってるなら…水で押し返すこともできるな」

「………そのようだね、今の様子を見ていると。教師という職業は面白い。生徒から学ぶことが多いからね」

 相変わらずの余裕を俺に見せつけてきやがる…。

 ここで疑問に思うのだが、その余裕はどこから来るんだ? 短期間の記憶操作で、俺に何をしたいんだ? 負けたことを認識させる? その後に長期間の記憶操作? 後から負けていないことを思い出せては、それは不可能じゃないのか? それとも記憶を重ね掛けできる? でもそれができるなら、どうして最初に自分でやらない?

 とにかく今の俺にできることは、記憶球に当たらずに、先生に隙を作らせること。

「うーむ、どうすれば…」

 俺はそう言ったが、既に新しい大型のウォーターガンを先生の背後に出現させている。正直この手が何度も通じるとはおもっていないさ。だから本命は…俺の真後ろにある。小型のウォーターガンを二丁、俺の後ろに出現させておく。これらは俺が邪魔で、先生には見えない。

 先生は後ろを振り向くか? 振り向かなければ大型のウォーターガンで撃つ。振り向けば俺がしゃがんで小型のウォーターガンで。二重の構えだ。

「これで行くぜ!」

 俺は水の刃を作ると、それを飛ばした。

「おおっと。それもできるんだった。忘れていたよ」

 先生は記憶球でガード。刃は折れ曲がる。だが俺の作戦は進行する。

「それは通じない」

 先生は後ろを向いた。

「今だ!」

 俺はしゃがんで、後ろに隠しておいたウォーターガンで水の球と刃を飛ばした。手に持っている水鉄砲とは比べ物にならない威力だ。そう簡単に防げるわけがないし、先生は後ろを向いている。前から攻撃が来るとは思っていないだろう。


 もらった!


 だが…。俺は目の前の光景に凍りつきそうだった。


 記憶球が大きくなって、ドームのように先生を包み込んでいる。


「そんなのアリかよ!」

 全方向からの攻撃を完全にシャットアウトできるバリアーを、作り出すなんて…。

「君も大した者だ。数学のように、一つの問には答えは一つだが、どのように計算しても良い。それを超能力でも実践できる。素晴らしい生徒だと思うよ、私は」

 言い終わると、ドームが徐々に大きくなっていく。

「まさか!」

 俺は防御しようとしたが、間に合わなかった。

 ドームは大きくなると、そのまま俺を弾き飛ばした。

「うわっ……………」


 急に体が宙に浮いたので、俺は驚いた。地面に落ちる寸前に受け身を取ったので、痛みは感じては…。

「う…」

 膝で立ったのが駄目だった。絆創膏が血で染みる。

「しかし…」

 先生は今、何をした? 攻撃が全くわからなかった。気がつくと体が吹っ飛ばされていた。それが先生の超能力? いいや、違う気がするが…答えがわからない!

「大丈夫かな、粒磨君? っと言っても既に認識できなくなってしまっているのだけどね」

 先生はそう言いながら、近づいてくる。


「負けたな、炭比奈粒磨」

 鍵下はそう言った。今の一撃を避けられなかった時点で、勝負は決したようなものだ。

 先生は、記憶のドームをただ大きくしたのではない。それに、『記憶』に関する記憶を改ざんする、力を入れていた。当たってしまったのなら、粒磨の頭から、記憶にまつわることは全て、一時的だが消えてしまっただろう。

「それが記憶球であっても、な…」

 記憶が消されたのなら、認識できなくなる。記憶球も新たに生み出されていても、もう見ることすら叶わない。視界に入っても頭が認識できないからである。

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