第十話 爆発と鍵下太陽
インドミナスエクスプローション そのⅠ
この月曜日の朝から、相手は手を抜いてくれない。登校すると俺の机の上に、メモがあった。
「放課後、校庭で待つ」
シンプルな文字列だが、そこで起こるであろうことは大事に違いない。俺は窓から天を見た。雲は少ない。ゆえに雨は降りそうではない。
「俺にとって有利な状況で臨みたいが、今行かないといけないのか…」
昨日は家にいた。雨が降り出しそうになかったからだ。だから今日もできるだけ戦うのを避けようと思ったが、駄目なようだな。
「行くの?」
真沙子が聞いてきた。
「行かない理由がない」
俺は返事をすると、一人で教室を出た。
校庭の一角に、倉庫がある。その屋根に人影が一つ。アレが鍵下だろう。
俺は近づいた。すると鍵下は屋根から降りて、
「炭比奈粒磨…。この島の暑さには慣れたか?」
「いやまだ、全然。猛暑はこれからが本番だろう? 南の島のビーチで過ごすのは楽しみだがよ、熱中症には気をつけないとな」
申し訳程度に世間話をすると、俺はおもむろに水鉄砲を取り出した。
「朝の会までに、済ませたい。だからここで終わらせてやる!」
トリガーはまだ引かない。鍵下の出方を見る。どんな超能力なのか、それを知ってからだ。
「奇遇だな。俺も同じことを考えて、この時間帯を選んだ」
鍵下が懐から取り出したのは…ロケット花火?
「俺には、遠近共に隙はない」
ピィーっと音を出して、ロケット花火が飛んで来た。俺は水で撃ち落とす。
「鍵下、今お前、いつ点火した?」
それが見えなかった。取り出した時には、火はついてなかった。ということは俺に向けた後に点火したということ。だが、火も見えなかった。
「お前のことだ、今ので俺の超能力がわかったんじゃないのか?」
見えない炎を起こすのか? 違う、そんなものじゃなかった。
炎だったのなら、空気が歪まないとおかしい。それはなかった。
「どうやらわかってないようだな。では今度は、別のものにしよう」
次に取り出したのは、電池だ。だが小豆沢の時とは異なり、市販されている一般的なアルカリ電池。
「電気か…?」
小豆沢が行ったように、電池の電流での攻撃…。鍵下はすぐに、俺に向かって投げた。
「その手はくわねえぜ!」
水の球を撃つ。電池を壊さないように弾いてやる。だが…………。
だが電池は、水に当たる前に、爆発した。小規模の爆風が、水の球をかき消した。そこに電流などは一切なかった。
「真沙子や小豆沢の超能力を再現しているようで、そうじゃない…。これは一体?」
増々ワケがわからなくなってきたぞ…。鍵下は攻撃の手を緩める気がないようで、今度はライターを取り出した。
もし真沙子だったら、点火して炎を大きくするだろう。
もし小豆沢だったら、フリントから電気を出すだろう。
だが鍵下は両方とも行わず、ただ単にそれを俺に向けて投げる。
アレもどうにかしないと、ヤバい! 俺の本能がそう叫んでる。じゃあ水で撃ち落とすしかないが、さっきみたいに爆発はしないだろうか?
とにかく、撃ち落とさねば。宙を舞うライターに照準を合わせ…。
「っわ!」
まただ。また、爆発した…。ライターにはオイルが燃料として入っている。それが空気中に飛び散ると、爆発で生じた火がついて、一瞬だが大きな炎が生まれる。幸い、俺に近づいた炎は水鉄砲の水で消せた。
「さっきから、爆発してばかり…。お前はとんだ不良品を掴まされているらしいな、かわいそうに」
「炭比奈粒磨、俺はそうは思わない。きちんと商品として完成し、店舗に並んでいたから買った。ただそれだけのこと」
そして鍵下は続ける。
「お前は何も気がつかないのか? なぜ電池は爆発した? なぜライターも爆ぜた? しかもお前が水をかける前に」
段々、見えてきたぜ…。
「爆発させるのが、お前の超能力か…! それはまた、随分と物騒な…」
電池もライターも、コイツが爆発させたのだ。どうやら爆破できるのは、火薬か高い発火性のある物のみ。そうでないなら、俺を爆破して終わりなはずだ。
「じゃあ水さえかけちまえば、真沙子のパイロキネシスみたいに無力化できるんだな、鍵下!」
俺は進む。水を鍵下にくらわせてやるのだ。手をびしょ濡れにしてやれば、ご自慢の超能力も使えないだろうに。
行けるぞ、これは。爆発にだけ注意すればいい。真沙子みたいに千度オーバーの炎が襲ってくるわけでもない。爆発しそうな物にだけ注意すれば。
「ふん。そう簡単にいくかな」
鍵下はマッチ箱を出すと、マッチ棒を大量にばらまいた。この状況でマッチ? 何のために? 鍵下は炎を操るワケではないのに?
「そうか!」
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