スクラッチアース そのⅦ

 だが、何も起きない。

「どうした? なぜ津波が来ない? この俺の超能力は絶対だ。途中で中断などしていない」

 武炉の最後の切り札…。その正体がわかった時点で、俺の勝ちは確定していた!

「津波…てことはよ、海の水だよな?」

「貴様、何を言って…」

 ここで武炉は、ハッとなった。気がついたようだ。

「最後だけ、普通の弾にしたのにはワケがあるぜ。それはな…俺の超能力を水鉄砲じゃなくて海に向けて、集中させてたからだ!」

 俺も相当の力を使った。もし武炉が溶岩なり間欠泉なり地震なり隆起なり陥没なり地割れなりを使っていたら、俺は確実に負けていたな。

「どうだ武炉? どんなに待っても津波は来ない! 俺が海水を操作して、全部封じ込ませてもらった!」

「馬鹿な……!」

 いいやこれが現実だ。

「これで最後だ…!」

 俺は、家に置いてきた大型のウォーターガンをアポーツで手元に出すと、すぐに構えて発射した。小型のウォーターガンや水鉄砲とは比べ物にならないほど水量と威力が違う。

「ぐううあああああ…………」

 武炉は断末魔のような叫びを上げて、その場に倒れこんだ。

「よ、よし…」

 俺は、辛うじて勝利を掴んだ。

「これだけ撃ち込んでも、吹っ飛ばないのか。武炉…お前、相当の猛者だな…」

 このまま津波を抑えつけるのも無理があるし、この島はそもそも存在しない。俺は武炉を船に乗せ、自分も乗ると八丈島に向かって進ませた。その後、津波が島を飲み込んで消した。


 だがここで、予想外の出来事が起きた。

「こ、これは…! なぜ武炉からも?」

 白い球体だ。武炉からも出てきて、弾けて消えた。

「武炉も、末端の一兵だったってことか…」

 俺は勝利こそしたものの、腑に落ちなかった。

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