スクラッチアース そのⅥ

「武炉! お前の勝ちは本当に動かないのか? 本気で自分の方が有利だと思っているのかよ? だとしたら、早合点し過ぎだぜ!」

 俺は叫びながら武炉に向かった。陥没した穴を大ジャンプで飛び越えると、懐にしまっていた水鉄砲を取り出して撃ちまくる。

「む! 貴様、まだ武器を隠し持っていたとは!」

 これには油断していたな。だってさっき、ウォーターガンを潰した時に武炉は、両方ともって言っていた。それはつまり、まだ俺が隠し持っているとはわからなかったってことだ。

 二、三発武炉は被弾した。だが怯まない。

「小賢しい!」

 その一言と共に、地面を揺らす。足元がおぼつかなくなった俺が発射する水の狙いが狂う。だが俺も、負けてはいられない。変な方向に行ってしまうのなら、そもそもの軌道を変えてやる。途中で曲がる、魔法の弾丸。

「貴様、まだ抗うか!」

 少し怒った武炉は、溶岩を連続で噴火させた。水は全て遮られて蒸気に変わる。

「そう来るか!」

 俺は一歩下がった。そして反転し、足元に気をつけながら逃げた。

 このままやり合っても、武炉の超能力は超えられない。なら逆に、利用するまで。そしてその時まで、時間を稼ぐだけだ。

「今更怖気づいたか、粒磨! 逃げていては、勝てんぞ?」

「どうかな? 俺にはこのまま、本島まで逃げて体制を立て直すって選択もあるんだぜ? お前が用意した船でしか移動できない? 違うな、テレポートすればあんな者には意味はない!」

「見損なったぞ貴様…。最後まで戦え!」

「そんな義理はないな。俺は俺の思うように戦うぜ。どうした武炉? お前の戦い方は、たった一つだけか? そんな単細胞なのかよお前は?」

 さあ、煽れるだけ煽った。後は武炉が、期待通りに動いてくれるのを待つだけだ。

 いや、必ず動く。

 まず武炉は、怒りを感じるだろう。それこそ頭が大噴火するぐらいに。だがアイツは、怒りに任せて溶岩を乱発するだろうか?

 答えは違う。この状況で武炉は、冷静になれる。だとしたら、チョコマカと逃げ回る相手に対して一番有効な手段は、一つしかないことに気がつくはずだ…。

「もういい。貴様はその程度の超能力者であることが良くわかった。もう用はない。この海に消えるがいい!」

 大きな音を立てて、波がやって来る…。この島に全方位から迫る津波。地震のせいで発生していた津波は、武炉が急かすとすぐにやって来る。

 これに相当力を使うのか、他に超能力を使ってこない。ならば!

 俺は逃げるのを止め、また武炉に向かった。

「うおおおお!」

 地面は揺れていないし、武炉は動いていない。これなら当て放題だ。

「ぐわ! がは!」

 水は当たる。武炉の足元には、防ぐための溶岩すら出てきていない。

「これも、くらえ!」

 俺はテニスボールぐらいの水の球を作り出し、撃ち込んだ。

「ぐおおっ!」

 これは効いたようだ。武炉が大きく後ろにのけぞった。俺はさらにもう一発、二発を放つ。これらも当たった。だがまだ武炉は倒れる気配を見せない。普通ならもう俺の勝ちなのだが、コイツは耐久力も尋常ではないらしい。

「こんな小技で、この俺が倒せると思ったか? 無駄だな! これぐらいいくらでも受け止めてやる!」

 これは強がっているだけだ。本当はもう、立っているのも無理なはずだ。でも足を曲げないのは、武炉は耐え切れば、自分の勝利だと確信しているから。

 だがその勝利…。やって来るかな?

「もっと打ちまくるぜ!」

 俺はトリガーを引く速度を上げた。水の球を作らないで、普通の弾を発射する。指が痛くなりそうだが、我慢だ。

「まだ耐えるか! だが武炉、もうこれ以上は無理だろうぜ!」

 煽っているわけではない。武炉の足が、プルプル震えている。もう限界なのだ。だが俺も、攻撃の手を緩めるわけにはいかない。

「………しまった!」

 水鉄砲から、水が出ない…。弾切れだ。水を使いまくりすぎた。

「それで終いか、貴様の攻撃は?」

 俺はトリガーを二、三回引いたが、水が出ない。

「ううっ」

 武炉は腕を上げた。

「じゃあ貴様ももう、終わりだ! 津波で洗い流してくれよう!」

 そしてその腕を下げた!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る