第六話 気流と雷折空飛

ビッグアトモスフィア そのⅠ

「うぐぐ…。ここはどこだ?」

 武炉が目を覚ました。

「お前は覚えてないだろうな。ここはお前が用意した、船の上だ。信じられないかもしれないが、お前は俺に勝負を挑み、寸でのところで俺に負けたんだ」

 他にも事情を話した。かなりプライドが高いのか、なかなか首を縦に振ってはくれなかったが、全身がびしょ濡れである理由が他にないため、最終的には頷いた。

「ふむ。つまりこの俺が、誰かに操られていた?」

「そうだ」

 やっとわかったか。

「妄想だな。それができる超能力者は、知らない」

 おいおい…。

「作り話じゃねえんだよ! 俺以外にも、目撃者はいるんだぜ?」

 一応、真沙子がそうだ。小豆沢の時、俺の横にいたからな。

 八丈島に着いた。俺たちは船から降りる。

「…まあ貴様の作り話だが、心当たりは全くないわけでもない」

「本当か?」

「この俺が唯一認めたライバル…雷折空飛。アイツなら何か知っているかもしれない」

 武炉はそう言い残すと、足早に去って行った。

「雷折空飛…。武炉がつるんでいる三人組の内の一人だったはず」

 残りの一人は鍵下太陽って言ったか? ソイツはあまり、目立つような奴じゃなかったな。

 気がつけば、日が沈もうとしている。今日はもう帰って、明日に備えるとしよう。


「雷折空飛。話がある」

 朝の会が始まる前に、鍵下は空飛を他の教室に呼び出した。

「武炉が、負けた?」

 普段の空飛からは想像できないほど、大きな声を出した。それぐらいの衝撃であったのだ。

「俺も信じられないが、武炉氏孝の様子を見るに本当のようだ。お前に見張らせなかったせいで、どうして敗北したのかは永久にわからん」

「おのれ、粒磨!」

 空飛は壁を殴った。それぐらいの怒りが、彼の心の中で生まれたのだ。

「俺はまだ、あの三人の調整をしなければいけないが…」

「構わん。私がインターセプトしよう。鍵下、お前は一切手を出すな…」

 空飛は、激怒している。それもそのはずだ。自分のライバルである武炉が、ここ最近島にやって来た、言わば部外者の粒磨に負けたからだ。ライバル同士の対決に、文字通り水を差されたかのように感じた。

「…一応、怖羽開ならもうすぐ出撃できそうだが。先に彼奴に向かわせるか?」

「いらん! 言ったはずだ、私がディフィートする…!」

 そう言うと空飛は、教室から出て行った。

「雷折空飛…。頼むぞ、お前なら勝ってくれると信じている」

 聞こえないとわかっていながらも、鍵下はそう言った。

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