グリーンエクスペリメント そのⅡ
「暴れるのは迷惑だよここで。出ようねー外に」
俺と四葉は、ビジターセンターの外に移動した。
「………」
いつでも懐に入れられるよう手を構え、四葉の出方を伺った。四葉は、どんな超能力を持っている? そして何が武器になる?
「じゃあ行くよウチから」
四葉は胸のポケットから、ハンカチを取り出した。
「布…?」
しかし四葉はそれを無言で開く。包まれていたのは、植物の種。
「こっちだよ正解は」
種で何をするんだ? 飛ばすのか? それなら俺でもできるが…。
それとも胚乳でも爆発させるのか?
四葉は種を手に取ったまま動かない。なら、俺の方から先制するのみ! 俺は懐から水鉄砲を取り出すと、四葉に向かって銃口を構えた。
違う。構えられてない。なぜか右腕が伸びて、全然違う方を向いている。
「こ、これは!」
俺の腕には、植物のつるが巻き付いている。そのつるは、四葉の手の種から伸びている。
「自由自在なの発芽も開花も。種さえあればウチの手にね」
植物を操る超能力! 俺は確信した。そしてその植物の伸びる速さは、考えられないくらい速い!
こういう時に真沙子がいれば、大活躍なのだろう。だが今は、そうではない。なら俺が一人で、戦うしかないらしいな。
「面白い…。これなら俺も一暴れできそうだぜ! 覚悟しておきな、四葉!」
「行くねなら」
四葉はもう一方の胸ポケットから、また違う種を取り出した。
「植物は毒を持ってるものがあるのアルカロイドっていう。ウチにかかれば成長は一瞬ねー超能力で…」
四葉が一瞬だけ、自分の手に視線を下ろした。俺はその一瞬を見逃さなかった。
「え、え?」
その一瞬で、四葉の手のひらの種は、地面に落ちた。
「余所見をする暇があるのか? 随分となめられたもんだぜ」
俺は左手に水鉄砲を握っている。そしてそれを四葉に向けている。
「どうやって今の?」
それでも超能力者かよ…。それとも専門性に特化させ過ぎてるのか?
「アポーツも知らないのか? わざわざ懐に手をもっていかなくてもよ、手元に出現させれば一発だぜ」
真沙子と戦った時は隠れながらだったから、アポーツしなくても大丈夫だった。小豆沢と戦った時は少しでも隙を突くために、ワザと動作を一つ一つ見せた。
でも四葉は違う。見える動きじゃ先に動かれる。
俺は水鉄砲の銃口に水を、十センチほど直線状に留めた。水の球の時とは違い、意識を集中させて形を保つ。そしてそれを、俺の腕に絡みつくつるに向けて振り下ろした。
つるは、切れた。俺の用意した、水の刃で。
「…! できるのねーそんなことが」
ウォーターカッターのように物を切り裂けることは、まだ誰の前でも披露してないからな。これは四葉にとって、想定外らしい。
「これでお前を切り裂くことは容易いぜ? だが流石に俺もそれは躊躇う」
「優しいね心配するなんてウチのこと…!」
「だがよーお前の…植物は全然気にはしない。お前が何をしようと、俺は水を使って貫くだけだ!」
「厳しいのね植物には…」
正確には植物にも、だ。水の刃は四葉に対して使わないとは言ったが、水の球は存分に使わせてもらう。
四葉は、後ろに下がった。距離を取るつもりだ。俺は縮めるために、四葉が下がった分だけ前進する。
いや、動かそうとした足を戻した。
ここは植物園。周りは植物だらけ。
俺の水には限りがある。そして始めて来るこの場所の近くには、水辺がなさそうだ。
植物は俺の水で簡単に処理できるので、一見すると俺が有利のように見える。だが実は、俺が不利だ。
「教えてあげるいいこと。種から育てないと動かせないのウチは」
急に四葉が自分の超能力の弱点を告白したぞ…?
「だから警戒しなくてもいいのここに生えてる植物は」
本当にそうなら、俺がやはり有利になるが…? 俺を騙すために嘘を吐いている可能性も捨てきれない。もっとも俺には、四葉がそこまで卑怯な奴には見えないが。
「教えてくれたからね粒磨が。なら教えないとウチも」
「何を、だ?」
「これこれ」
四葉が手のひらを俺に見せて来た。そこには何も乗っていない。
だが次の瞬間、大きめの種が出現した!
「アポーツ…!」
さっき俺がやって見せたのと同じ。四葉はアポーツで手の上に、種を出現させた。
「吸収が早いな。四葉、お前にアポーツを見せるべきじゃなかったぜ」
俺はそう言うと、戻した足で踏みだし、
「この園内の植物全てが支配下なのなら、ビジターセンターで待ち伏せる必要も、種を使う必要もない。お前の言っていることはどうやら、本当のようだな。嘘なら今頃、俺なんて瞬殺だろう?」
俺が警戒すべきは、四葉の繰り出す種とそこから伸びてくるつる。だがつるは、水の刃で切断が可能。しかしアポーツを習得されたのは厄介ではある…。四葉が種切れを起こしにくくなった。
「来るのーじゃあ?」
当たり前だ。近づかないと、水を誤射してしまうかもしれないからな。それに水の球は至近距離でこそ最大の威力を発揮する。水の刃も近づかなければ意味がない。
四葉は反転し、走り出した。向こうも近づかれたらマズいことを察したのだろう。だが逃げるということは、打てる手が多くないのと同義。戦略的撤退でもなさそうだ。
「四葉! すぐに追い詰めてやるぜ。お前にこそ、誰の差し金なのかを吐いてもらう!」
俺は四葉の後を追った。
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