グリーンエクスペリメント そのⅢ

 相手に背を向けて逃げなければいけない都合上、追ってくる相手の様子を伺うのが難しい。だが今、俺は追っている立場。つまり俺が何を企み実践しようとしても、四葉は振り返りでもしなければわからない。

 普通なら、動きながらじゃ撃ってこないって思うよな…。だが俺は違う。自分も標的も動いていたとしても、正確に命中させることなんぞ朝飯前だ。

 銃口を四葉に向け、水の球はゴルフボールほどの大きさにして、発射…!

「…チッ!」

 四葉の行動も予想外だった。いきなり大きくジャンプ、それも人力じゃ無理なくらいに。

 左前方に大きな木があり、その枝が揺れた。

「つるを伸ばして、木に移るとは。ターザンみたいじゃないか。そんなことまでできるとはな!」

 少々相手を侮っていた。四葉は俺が思った以上にできる人間だ。アポーツを見ただけで行って見せるほどの腕は確かにある。

「だが、俺に通じ…」

 通じない、と言おうとしたときだ。大量の栗が空から降って来た。

「うおおお! 何だ?」

 水の散弾と刃で、俺に向かって降ってくる栗のみを除去した。他のは水の無駄になるから無視だ。

「通じないのねこれも」

 四葉は確かに、既に生えている植物は超能力の対象外と言った。それが嘘だったのか?

「桃と栗は実をつけるまで三年って聞くがよ、驚いた。お前の超能力なら一瞬で十分事足りるのか…」

 種さえあれば、瞬時に実をつけさせることが可能。思い出せばさっき、開花も自在と言っていた。それをすっ飛ばすことすらも、簡単なことなのか!

 植物を操るなんて地味っぽいが、これもこれで応用力がある。

「…どうやら鬼ごっこをしている暇はなさそうだな…。接近して一気にカタをつけるぜ!」

 それが一番手っ取り早い。どうせまた白い球体が飛んじまって記憶に残らないんだから、四葉から聞くことはさっさと諦めた方がいい。

「行ったのどこに?」

 四葉がそんな発言をしたのは、俺が一瞬で消えたからだ。

 俺が動くと、ミシッという音が枝からした。それを聞いて四葉が振り返った。

「いるのどうしてここに?」

 さっきまで地上にいた俺が、急に後ろに現れたことに驚きを隠せないでいる四葉。俺は少し呆れ気味に、

「テレポートも知らないのか? 余程基本的な超能力の鍛錬をサボっていたらしいな…」

 それはやる気がないからなのか。それとも、超能力に対して知識量が少ないと見せかけることで、隙を作る作戦か。少なくとも俺が最初にアポーツを見せてしまったことで、四葉はそれを習得した。ということはテレポートも…。

「やはりか!」

 消えた。目の前にいた四葉が。

 テレポートを使われた。どこだ、どこに移動した…?

 俺が首を振って探していると、頭の横に何かが当たってガンっという音が電流のように俺の体に流れる。

「痛つ…。なんだ今のは?」

 当たったそれは、役目を終えたように下に落ちていく。クルミだった。また四葉が種から実まで一瞬で成長させ、それを射出したようだ。

 落ちていくクルミ。それがどこから飛んできたのか探らなければいけないが…。俺の目はクルミにくぎ付けになっていた。

 その硬い実が、枝から生える葉と葉の間を落ちていくとき、下から違うクルミが飛んでくるのが一瞬だけ見えた…。


 下か!

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