第三話 植物と桝箱四葉

グリーンエクスペリメント そのⅠ

「…であるから、ここでは右ページの式を用いて…」

 狩生かりう平汰へいた先生が授業を進めている中、俺は窓の外を見ていた。

 あの後、目覚めた小豆沢にダメ元で聞いてみたが、やはり首を横に振った。むしろ、何でずぶ濡れなのかを問いただされたほどだった。

 何かは、起きている。だが何が起きているのか…。両者は同じことのようで、ちょっと違う。それこそ方程式のようだ。

「授業中によそ見とは、感心しないなあ、炭比奈くん?」

 先生が俺の授業態度を指摘する。

「…その範囲は前の学校で既に習っていたので」

 すいませんでした、ではなく言い訳を口にした。

「ならば君は、週末分の宿題を出しても今日で終わらせてしまうのだろうね。なら少し、この島を見て回ってはどうかな? きっとまだしっかりとは見れてないだろうからね。ちょうど近くに八丈植物公園もある。放課後にでも見に行けばいいよ」

 転校生という点に配慮してくれたのか、お咎めなしだった。

 植物園か…。そう言えば高校の横に、草木が生い茂る空間があったな。ちょうどまだ足を踏み入れていないし、授業が終わったら行ってみるか…。

 そう決めたのなら、せめて残りの授業だけでも真面目に受ける。俺はシャーペンをもって黒板の方を向いた。


「入場無料とは、高校生には有難いぜ」

 もっとも離島に引っ越したから、全然遊ばなくなって必然的に財布が重くなるのだがな…。

 俺は植物園の中に進んだ。あれはヤシの木だろうか。いかにも南国って感じが出ている。ここは東京都のはずなんだが…。

 さらに進むと、建物が見える。八丈ビジターセンターだ。ちょうど俺も、つい最近この島を訪れた者。中に入っておこう。

 さて中には展示が…と思ったが、俺に背を向けて、女子が一人立っていた。

「…?」

 後姿だけでも、俺と同い年ぐらいとわかる。

 その女子は、俺が一歩進むと振り向いた。

「来たねー炭比奈粒磨。勝負よウチと」

 コイツも、俺たちと同じ超能力者…! 全くこの島には、あと何人いるんだ?

「どうして俺がここに来るとわかった?」

「先生の話を聞いてたねウチも。だからやって来たのここに」

 こちらに向けた顔をよく見ると、、クラスの端っこの方に座っていた顔だな。だとすると、先生が俺に植物園に行ってみるといい云々の話は聞いてて当たり前か。

「俺がどこに行くのか聞いたとしても、じゃあお前は誰に、行けと言われたんだ?」

 それが知りたい。だが、

「関係ないよ君には」

 どうやら聞く耳もないらしい。

桝箱ますはこ四葉よつば…。名前ねウチの。呼ばないでねお前なんて」

 俺だって、転校当日にみんなの自己紹介があれば名前で呼んでいる。それはお前…じゃなくて四葉たちの責任だろ!

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