エレクトロンブラスト そのⅤ
走っている最中、小豆沢は電気を撃ってこなかった。俺も水を撃たなかった。自分も相手も動いていて狙いづらいし、お互いに残弾数に限りもある。ならばなんら不思議なことではない。
ただ単に足を動かすだけっていうのも詰まらないな。俺はそう思い、前方の地面に向かって水を撃った。地面に放たれた水は小さな水溜りを作る。
俺はまたいで通り越した。その後だ。水溜りの水を、水柱に!
「おのれえっ、小賢しいことを!」
悲鳴ではなく文句が聞こえたから、走行妨害にしかなっていないようだ。でも構わない。小豆沢に追いつかれる前にたどり着ければ! そのためにも、何発も撃っては水溜りを作った。
「まだまだ、どんどん邪魔してやるぜ」
俺が今やっていることは、本当に嫌がらせレベルのことでしかないだろうな。だが真の目的を悟られないようにするには、続けるしかない。
「いい加減にしろ、粒磨!」
ついにしびれを切らした小豆沢が、俺の前方に電池を投げた。
「うお」
その電池が、空中放電した。驚いて俺は足を止めた。
「ここで決着をつける。それで構わんな?」
俺の前方には、海が見える。あとほんの数メートル歩けば届く距離。
「まあ、いいぜ。小豆沢! さあ、来いよ!」
水鉄砲を小豆沢目掛けて構える。そしてトリガーに指をかける。
「くらえ…」
そう言ったはいいものの、水を発射できなかった。
「…ぐぐ、ぐわっ」
さっき投げた電池がまだ生きており、俺の背中にぶつかって放電した。思わず俺の足が崩れる。
「どうやら走るだけ、無駄だったようだな。まあいい。ランニングなら死ぬまでできるだろうからな…」
スタンガンを俺に向け、歩み寄る小豆沢。バリバリ音を立てて迫ってくる…。
「くっ!」
俺も黙って見ているわけにはいかない。水鉄砲の向きを真逆にし、水を発射するとともに手を放す。
「ん…?」
一見すると無意味な行為だが、俺に限ってはそうじゃない。水鉄砲の水流を抑える手がなくなったため、水鉄砲自体が、水の噴射で前に動く。そして水流は俺の超能力で強化されている。
「どうだ?」
水鉄砲だけが小豆沢に向かって飛んだ。これが当たれば小豆沢はびしょ濡れになり、手や体が濡れている状態では電気を操作することはできないだろう。
「いかにも素人が思いつきそうな作戦だな」
スタンガンの電力が一瞬だけ、強くなった。そして稲妻が俺の銃を弾いた。弾き飛ばされた水鉄砲は俺の上を越えて遥か後方に…。
「これでお前も、武器は一つだけ。さあ粒磨、覚悟をしろ!」
いいや。それは違うな。
「小豆沢、不思議に思わないか? 何で俺がわざわざ、海が見えるところまで逃げたのか。何で電池が炸裂したときに、方向転換をしなかったのか?」
その答えが、これだ。
俺はアポーツで、水鉄砲を手に出現させた。
「何丁あっても俺の敵ではない。そんなこともわか…」
「数で語る次元じゃないぜ、小豆沢!」
俺は、意図的に小豆沢を狙わないで乱射した。
「…………何の意味がある?」
わからないのなら、俺が教えてやる。
「お前が海まで飛ばしてくれたおかげでな、中身は海水でいっぱいだ。聞いたことはないのか、塩水は電気をよく通すってよ」
理科室の食塩水は何パーセントだ? 実験で使う濃度よりも海水の方がはるかに濃い。
「よく通電するんだぜ? 電気はそっちに多く流れてしまうんじゃないのか? ならばこの水に電気が遮られたのなら、向こう側にはたどり着けない。そう思わないか?」
普通は発想が逆だ。よく電気を通すなら、遮ることは無理だ。だからここで必要なのは、海水ではなく純水になるはずだ。
だが、俺のセリフの中身は重要じゃない。気を引くこととそれに感づかれないことの方がはるかに大事だ。
「馬鹿め…。俺は電気を自在に操れるんだぞ? そんなことは無意味に決まっている!」
確かにそれも一理ある。だが小豆沢は、スタンガンを前ではなく上に構えた。海水に邪魔されるのを嫌ったのだ。ということは、不純物を多く含んだ水なら小豆沢の超能力に多少影響を与えることが可能。
「それを待っていた!」
ここに逃げろと言っておいた。真沙子に!
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