エレクトロンブラスト そのⅣ
俺は一歩だけ後ろに下がった。逃げるためじゃない、距離を保つためだ。近ければ近いほど、俺の水の威力が高くなるし、命中精度も良くなる。だが裏を返せば小豆沢にも同じことが言える。
俺の足の動きを見ていた小豆沢も、一歩だけ下がった。
ここは……。小豆沢の体を濡らしてしまえばいい。びしょ濡れの状態でスタンガンのスイッチを入れちまえば、自分に感電して終わりだ。雨が降るのもいいな。真沙子の時のように、天を味方に…。
「粒磨…お前は今、一瞬だけ、雨が降ればいいと思っただろう?」
小豆沢の発言に俺は、ハッとなった。自分でも気づかないうちに、無意識のうちに目が空を見上げていた…。
「そうやって真沙子に勝ったんだものな。だが奇跡は二度は起こらんぞ」
「どうしてそう言える?」
雨が降ったのは本当に運が良かったからだが、そこから勝利に繋げるのはまた別の話。
「お前が降る雨を操れるなら、俺だって落ちる雷を操れる」
「なにっ!」
そういう意味か!
「雨雲ってのは大抵、帯電しているものだろう。そこに蓄積されている電気すら、俺の支配下なのだぞ」
マジでそんなことができるのか…。小豆沢の発言は確かめようがない内容ではあるが、万が一を頭に入れるのなら、雨には期待しない…いや、降るというのならその前に勝負を決める!
「でも俺はお前の支配は受けないぜ! 必ず電流を絶ってやる!」
懐からもう一丁の水鉄砲を取り出し、そして二丁とも構える。狙いは小豆沢のスタンガン。もう一方は発射後にちょっと細工をし、散弾させる。俺の超能力ならできる。
引き金に伸ばした指に、少し力を入れた。もう、ほんの少し筋肉を動かせば発射できるぐらいに。
反応して小豆沢も動いた。ポケットに突っ込んだ手が握っていたものは、
「電池?」
スタンガン二刀流ではなく、充電式電池だった。しかも一個ではなく複数、ポケットに入っているようだ。
この場面で、電池を? スタンガンじゃなく?
「っうお!」
もし俺がそのまま、両方の水鉄砲のトリガーを引いていたのなら、あっけなく負けていただろう。小豆沢は俺の作戦を読んでいた。水を拡散させるとわかっていて、ワザと電池を大量に放り投げたのだ。水が電池を貫けば、電池の中から電気が漏れ出す。その電気が俺に向かうようにする小豆沢の作戦。
「危ねえな…。もしこっちの散弾のトリガーを引いていたら、一斉に稲妻が俺を襲っていた…」
その恐怖に背筋がゾッとする。思わず口に漏らしてしまった。
だが発想を逆にすれば、小豆沢が行える作戦は、今のヤツぐらいか? 電池をこちらに転がしてくる可能性や、サイコキネシスで持ち上げて、再び弾幕を張る手法もありそうだが。
俺も負けてはいられない。トリガーを引き、水を発射した。
「そんな小粒、電池を使うまでもないっ!」
スタンガンからバチバチと電流が放たれる。それで防御する気か?
「できるものなら、やってみろ!」
俺は銃口を正面に向けて水を発射したが、だからと言って水が真っ直ぐ飛ぶわけではない。
「み、水が?」
まず下に曲がる。そして右に飛び、上昇しながら大きく左に返り…。
「うぶ!」
小豆沢がスタンガンを守ろうと動いたから、水の着弾点は口の中になってしまった。せめて手首、いや腕に当たっていれば…。
「ゴホ、ゴホ!」
むせてはいるが、それ以上のダメージにもなっていない様子。
「やはり狙うはスタンガンのみだな。覚悟しろよ小豆沢!」
俺は地べたに転がっている電池を避けるために、迂回して小豆沢に近づいた。
小豆沢はどう出る? またポケットに手を運んだ。
何が来る? 俺は一瞬だけ、立ち止った。
「やはりなっ!」
今度は小豆沢が大きく動いた。手はポケットに入れたまま、スタンガンを振り上げて。俺は横にジャンプした。
「コイツ…。何かを取り出すフリをして、実は何もないだと!」
だがそれで、隙を作らされた。電気を通す何かをまき散らされた時、近くにいてはこちらが不利だからだ。
「ふぅ…」
落ち着け、落ち着けよ俺…。波紋一つない水を想像しろ…………。
「わかった…」
俺は小声でそう呟くと、反転して走り出した。
「粒磨ぁ! 逃げるつもりか!」
小豆沢が大声で怒鳴る。
「声のボリュームから察するに、俺がこういう行動をすることまでは読めてなかったようだな? それで俺に勝つつもりだったとはな、笑えるぜ!」
あえて感情を逆なでするよう、俺は言葉を放った。そうすれば小豆沢も追いかけてくる。
「逃がさんぞ、決してな!」
よし、いいぞ! 後を追ってくる。目的地まで足腰の戦いだ。
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