エレクトロンブラスト そのⅢ

 不意に、転がっている空き缶が動いた。そしてそれが俺に向かって宙を舞う。

「…しまった!」

 相手も超能力者。こんなことはできて当たり前だ。気を取られたその一瞬で、小豆沢はこちらに向かって前進している。

「一手遅れたか!」

 水鉄砲のトリガーを引いた。的は空き缶だが、動いていてもこれぐらいなら目で見て狙う必要はない。百パーセント当てられる。

「くらえ、小豆沢!」

 すぐに銃口を戻して小豆沢の、スタンガンを握る手を目掛けて…。

「ぐわああぁ!」

 何だ? 急に体が痺れる…。それも電気風呂に入った時のように。下半身に力が入らない…?

「遅れたのは、一手だけか? 本当にそうか?」

「そ、そうか…」

 空き缶を先に、帯電させていたな。あれは隙を作るための小道具じゃない。むしろ本命だった。

 小豆沢は、おそらくアポーツで電気を直接金属でできた缶に送っておき、それを俺に向かって動かした。もちろん俺が撃ち落とすことを見通して。俺は実際、完全には撃ち落とせてはおらず、小豆沢も力を集中させて、俺にギリギリ届くようにしたのだ。

「いいや、三手だ!」

 小豆沢がスタンガンを振り下ろそうとした。

 マズい!

 だが、小豆沢はパチンという音が鳴ると、一瞬で後ろに下がった。

「ちっ。真沙子、お前がいたのを忘れていた」

 この絶望的な状況で手を差し伸べてくれたのは、真沙子だった。あのパイロキネシスを使って小豆沢を退けたのだ。

「礼はいらない、わよ。あなたの水が小豆沢君の電気とどうやって戦っていくのか、見たくなっただけ、だから」

 そんなことを言って助けてくれた。

「でも、もうこれ以上は役には立て、ない…」

 しかし、いきなりネガティブなことを言い出した。

「何でだよ」

 パイロキネシスでスタンガンを溶かせば…。俺は真沙子が助け舟を出した際、真っ先にそのことを考えていた。それができるのは真沙子だけだからだ。

「ならよーく見てて、よね」

 また指を鳴らして炎を繰り出し、それを小豆沢に向ける。小豆沢も負けじとスタンガンから放電する。

 炎と電気…。ぶつかると同時に、炎だけが消えた。

「何が起きた?」

「粒磨は知らない、のね。炎は電気的な現象…。その電気を操れる小豆沢君なら、一方的に無力化できてしまう、のよ」

 そんなことが起きるのか…。初めて知った。通りでさっき真沙子は、小豆沢を見て固まっていたわけだ。自分の超能力を使っても勝てない相手だから。

 だとしたら、真沙子は小豆沢に負けて下っ端になったのか? いいやそれは今はどうでもいいな。小豆沢を突破することが最優先だ。

「真沙子! ここを真っ直ぐ行って逃げろ。炎が通じないなら、ここにいても邪魔なだけだ!」

「…わかった、わよ!」

 真沙子が走って行く。小豆沢はやはり、追いかけない。あくまで目的は俺であるらしい。

「粒磨…。俺に勝つつもりでいるのか? お前の水なんぞ、俺にとっては恐れるに足りんと言うのにかっ!」

「小豆沢…。それは真に勝利してから証明してもらおうか! あと、勝負の前に、お前たちの目的は何だ? それを聞いておきたい」

 勝ってからじゃ、また球体みたいなのが飛んで行って駄目な気がする。かと言って負けた後でも、洗礼だか洗脳だかが待ってて駄目。だが…。

「そっちこそ、勝ってから聞いたらどうだ?」

 そういう返事がくると思ったぜ。

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