エレクトロンブラスト そのⅡ

「本当に東京都かよ? 何にもない…」

 そのことは知ってはいたが、再認識すると悲しくなる。だがどうしようもないのも事実だな。

「あっちが病院で、こっちに空港があって…。ここを真っ直ぐ行けば海に出るわよ」

 真沙子の案内は学校の周辺以外は大雑把ではあった。だが方向さえおさえれば、道に迷うことはないだろう。

「大体は覚えた、わね? じゃあわたしはもう帰ろうかしら」

「ああ、ありが…」

 感謝の意を表そうとしたその瞬間だ。俺の足元に、電池が転がってきた。

 落とした記憶はない。そもそも電池を必要とする電子機器なんて持ち歩いてない…。

「と、おお!」

 真沙子を軽く突き飛ばして俺自身も反対方向に飛んだ。電池から稲妻が走ったのは、ほぼ同時。反応があとほんの一瞬でも遅れていたら、足にくらっていた。

「何だ? 昨日のお前といい、これといい……。この島には、やはり何かあるのか!」

 俺が叫ぶと真沙子は、

「わたしは知らない、わよ!」

 と返事をする。昨日もそれを聞いた。だが何もないならこんなことやあんなことは起きないはずだ。

 足元を注意しながら辺りの様子をうかがう。怪しい奴はいない。俺は懐に腕を伸ばし、水鉄砲を手に取った。

「真沙子! 変な奴はいないか? 俺には大丈夫そうに見えるが…」

 真沙子の方を向くと、一方を見つめて固まっている。

「大丈夫じゃないんだな?」

 視線の先には、男子が一人。俺と同じ制服を着ている。

「小豆沢君、よ…」

 その名前は、学校にいた時に真沙子の口から聞いた。

「クラスメイトが、俺たちを追いかけて来たのか!」

 俺は銃口を小豆沢の方に向けた。この距離なら、外す心配は無用だ。むしろ怪我をさせないように加減する必要があるくらいだ。

「ふっ! そんなチンケなもので俺と勝負しようというのか、粒磨!」

 小豆沢もポケットに手を突っ込む。何が出てくるのか…。

「お前の水と、俺の電気…。どちらが優れているのか……。面白いっ!」

 手にしていたのは、スタンガンだ。

「それは相手に触れないと意味ないだろう? だったら俺に軍配が上がるぜ」

 挑発じゃない。証拠に俺は、一発、小豆沢の足元目掛けて撃った。近くに転がっていた石ころに水が直撃すると、真っ二つに砕いた。

 小豆沢も下を見て、威力を確認した。

「……」

 だが、アイツがこのまま引き下がるとは思えない。その表情から、それが読み取れない。

「なるほどなぁ。聞いただけのことはある。だが…」

 今度は自分の番だと言わんばかりに、小豆沢はスタンガンのスイッチを入れた。

「何?」

 スタンガンには何も接触していない。本当なら空中で無意味に放電するだけのはず。しかし違う。

 放たれた電流は枝分かれし、足元の二つに割れた石ころに向かって、閃光を放ちながらビリビリと音を立てた。そして石ころを完全に包むと、それを粉々に砕いた。

「真沙子が炎なら、小豆沢…。お前は電気か」

 そして俺は水。どうやらここにいる超能力者は、みんな専門分野があるらしい。

「だからと言って、そう簡単には負けられないな!」

「それはこっちのセリフだ!」

 強がってはみたものの、どうなるか。


 冷静に分析するなら、あの電気をどう処理するかによって勝敗が決まる。ただ単純にくらわなければいい、なんてことはない。水は電気を通すからだ。俺の水鉄砲には、水道水が入っている。この不純物まみれのこの水は、普通に通電する。それではいくら弾幕を張っても防御は難しいだろう。

 純水だったら電気を通さないので、楽勝だったかもしれない。が、純水器もないのに手に入るわけもない。

 水と電気がぶつかったら…。それはやってみないことにはわからない。だが小豆沢がこうして堂々と向き合っていることを考慮すれば、高威力の電流ならおそらく水だけはじけ飛んでしまうのだろう。威力が低ければ水は帯電したまま。どっちに転んでも、俺に有利に働くわけではないな。ならばこの勝負…。


 いかに電気を避けて水を当てるか。これで決着が決まる!

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