第二話 電気と小豆沢長咆

エレクトロンブラスト そのⅠ

「どうやら、真沙子が負けたようだ」

 夜の学校。照明はもちろんついておらず、相手の姿はおぼろげにしか確認できない。だが、声の主には相手が誰だかわかっている。そしてその相手も問いかけに答える。

「真沙子は新参者の小手調べには丁度いいレベルだ。最初から大きな期待はしていない」

「では次は、俺が…」

「その必要はない、鍵下。ここは一つ、小豆沢あずさわに向かわせよう」

 二人の会話は、まるで闇に溶けるかのようにそこで途切れた。


 まだ真沙子だけだが、教室で話ができる人がいるのはデカいな。昨日とは俺のテンションもちょっと違うぜ。

「アイツ…。何やってるんだ?」

 だが真沙子以外のクラスメイトは、全くと言っていいほど俺と顔を合わせようとしない。

「小豆沢君ね。あれは彼の趣味、だわ」

 小豆沢とかいう男子は、自分の席で何か、やっている。

「俺には見えないけど、教室に魚でもいるのか? あんなにグルグル回してよ」

「あれは手回し発電機よ。小豆沢君はいつも、あれを回している、のよ」

 俺の中で小豆沢には、発電厨というあだ名が付いた。どうしてそんなことをしているのかを真沙子に聞いても、真沙子自身もわかっていないようだった。

 じゃあ他の奴に聞くか? それは駄目だ。だって誰も心を開いてくれねえ…。

 ならば、様子見だ。高校生活だってまだ二か月、転校してほんの数日しか経ってないんだから、クラスメイトの奇行なんて今知らなくても大丈夫だろうよ。卒業まで続けば、それはそれでドン引きではあるが…。

「…あれは放っておいて、この学校を島ごと案内してくれよ、真沙子!」

「そんなの、嫌よ! 自分で回ればいいじゃない!」

 炎を起こすわりには、ちょっと冷たい性格だな。

「じゃあ迷子になっても知らないぞ? お前は困るんじゃないのか、こんな少人数でも委員長なんだから」

「な、なによー!」

 今のは煽る反面、本心でもある。いくら八丈島が小さな離島とは言っても、ディズニーランドの百五十倍くらいの広さはある。一人で歩いたのら、こんなの迷子にならない方が無理だ。

「少しだけ、よ? それもあなたが遭難しない、程度だけ」

 それでも十分だ。

 それに加えて、俺には確かめたいことがある。昨日真沙子の頭から出て来た、白い球体。あれは一体、何だったのか。

「もしかして、強大な何かがこの島に潜んでいるとか…」

 俺の独り言は小声だったから、隣にいる真沙子に聞こえていなかった。だったら気のせいで済ませたい。そのためにも、この島を少し歩いてみる必要はある。


「小豆沢、行け。粒磨はどうやら真沙子と一緒のようだが、お前なら何も心配ないだろう。なんなら俺もついて行ってやろうか?」

「思いあがるなよ鍵下。俺が、二人まとめて捻りつぶしてくれるわっ!」

 二人の後を、小豆沢がこっそりとついて行く。

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