マジックフレイム そのⅣ
そして、今こうしてそのチャンスを待ってるわけだ。あればの話なんだが…。
真沙子はまた噴水してる。その明かりが徐々に俺に迫ってくる。
負けるかよ。上陸して三日で、この女の尻には敷かれない!
俺は、真沙子とは全然違う方向を狙い、カシャッと撃った。
少量の水が解き放たれて真っ直ぐ飛ぶ。しかし途中で向きを変える。まるで最初から、その軌跡を描くことが決まっているかのように。もちろん俺がなせるワザだ。
「ふん…!」
赤い炎が一瞬、真沙子を中心に渦を巻いた。三百六十度、全方位。どこから来るかわからないなら、全部塞いでしまおうと言う発想らしい。
なら真上か? いや駄目だ。俺は首を振った。そこが弱点になっていることは、真沙子が一番わかっているはずだ。そんな相手が、何の対策もしないで今の一手を使うだろうか?
真沙子の足音が俺に近づいてくる。さっきはトリガーの発射音をワザと聞こえるように撃った。水の軌道は途中で変えるから、真沙子が困惑するかもしれないと期待したが、裏目に出たな。居場所が文字通り一発でバレた。
「そ、こ、ね…!」
逃げるか? 海の方まで逃げれば、逆転し放題。俺がわかっているなら、真沙子の頭にもあることか。ならばそれを許すはずがない。海岸にはたどり着けないだろう。
マズイ…! 俺はテレポートとかアポーツとか、使えないわけじゃないけど…。自信があまりない。見ず知らずの場所でテレポートしても、どこに行く? そしてこの状況、消火器でもアポーツで持ってくれば解決できるのか? その消火器は、どこのを持ってくるんだ…?
「諦めて、わたしと共に来なさい。そうすれば何も苦しむことは、ないわ」
何だ洗脳でもされているかのような発言…。絶対その手には乗らないぞ俺は!
「やるしかない!」
俺は覚悟を決めた。そして木の陰から出た。もちろん、水鉄砲は構えている。その銃口の先は真沙子に向いている。
「それは意味ないって、わたし言った、わよ」
確かにそうだろうよ。でもな、俺の作戦は違うんだぜ。
自信のないものは混ぜればいいんだよ。
真沙子の後ろでは、消火器が宙に浮いている。アポーツで船に備え付けてあった消火器を持ってきて、ピンを外した後にテレポートで真沙子の後ろに出現させた。結局、船に備え付けてあったヤツしか思いつけなかったが、今は許しておくれ柊造船所よ。あとで新品と交換しておけば多分、問題ないだろう…。
落ち着け、水のように…。真沙子の注意は俺の水鉄砲にしか向いてない。
俺は水鉄砲の残りの水を、全て銃口に集結させた。直径で言うなら五センチぐらいの水の球ができあがる。
「これに全てを賭けよう。最後の一発ってわけだ。あまり遠くには飛ばないが、この距離…。威力はデカいぜ!」
「ふふふふふ。そう、かしら? わたしには自殺行為にしか見えない、わね?」
俺もこの一撃が真沙子の炎に通じるとは考えてない。
真沙子の方も、炎をバスケットボールぐらいの大きさにすると、俺に向かって構えた。そして互いに睨み合う。
ポツポツ、と水が落ちる音がした。
「いけぇ!」
「させない、わよ!」
俺が最後の一撃を放つと同時に、真沙子も撃って来た。始めから敵わないと知っていた俺は、すぐにしゃがんだ。そして直後に、俺の水は真沙子の炎に呑み込まれた。火球は俺の上を勢いよく通過した。
今がチャンス! 俺は消火器を超能力で操り、レバーを下して…。
「お見通し、だわ」
真沙子は振り向きもせず、ただ後ろに腕を伸ばすと、今度は手のひらから火炎放射をする。
消火器は水を放出するわけではない。消火剤という、薬剤を火元に向かって発射するのだが、真沙子の炎はそれすらも相殺するレベル。見る見るうちに消火器本体も熱で形が変わっていく。
「そんな馬鹿な! これも通用しないのか!」
絶体絶命だ…。俺が、負ける………。
しかし、奇跡が起きた。
ポツポツという音が、周囲の地面から聞こえる。さっきよりも回数が多い。
「…ん? 雨ね。そう言えば降りそうな天気、だったわ」
雨。俺が空を見上げると、額に振ってきた。
普通なら、ブルーな気持ちになるだろう。だが俺は逆に気分が高ぶった。
「真沙子! これで俺の勝利が確定したぜ!」
この辺りには、貯水池などはない。海岸からも離れてるし、俺も水を入れておける容器を携帯してなければ、アポーツで出現させる予備を家に作り置きしてもない。
でも雨は別だ。降り始めたのなら、その全てが操れる。
「それで勝った、つもり? 笑わせ、ないでよ!」
真沙子も勝負を決めるつもりだ。炎を再び起こそうとする。だが…。
「え、何でできない、のよ?」
俺はパイロキネシスに詳しいわけじゃない。だが察しが付く。湿度が変ったのだ。湿り気が増せば、火は付きにくい。雨の日に花火ができるか? 雨天中止に決まってる。
雨が強く降り出した。俗にいうゲリラ豪雨か、それともスコールか。天は俺に味方した!
今。まさにこの瞬間。真沙子が火を起こすのに苦労しているこのタイミング。俺は雨水を操り、真沙子目がけてマシンガンの如く集中砲水した。
「うわああ、あああ!」
威力は加減した。少し痛いぐらいで怪我なんてしてないだろうよ。でも身も心もずぶ濡れにするには十分だった。
「危なかった…。真沙子、お前は俺が初めて出会った超能力者で、しかも実力は折り紙つき。だがな、運と天は俺に味方した…。お前はもう火の粉の一つも起せやしない」
勝負あった。同時に、雨も上がった。
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