偽物小屋

鐘辺完

偽物小屋

 偽物小屋


 うーん。

 こんな店があるのか。


 看板にでかでかと「偽物小屋」と書いてある。


 昔、「見世物小屋」というのがあったらしい。見たことがないから、今もあるのかどうか知らない。

 なんか、蛇女とかいって、とぐろを巻いた大蛇のつくりものの中に入った女の人が顔だけ出してるのを見せたりするものだ。

 これなんか一応それなりの形をつくってるだけましで、古典落語で有名なやつなんかひどいものだったりする。落語の中でどう扱われてるか説明してやらない。自分で巡り会うまで落語聞くように。


 そんなわけで「見世物小屋」の時点でだいたい偽物なんだから、ここは最初から「偽物」と言い切っているだけすがすがしい。

 「モギドリ」という言葉がある。「客から金をもぎ取ってしまえばその後は構わない」というもの。

 最初から偽物だと看板出していれば、こっちももぎどられてもすっきりできる。


 じゃあどんなインチキがなされているのか入ってみよう。ダジャレの出来が良ければ納得しよう。


 入場料:800円


 微妙に高い気がする。ダジャレひとつに800円だと考えると高い。


 無名の若手ふたりだけの落語会とか行くと落語がふたつ聞けて800円くらいで済むこともある。


 東京のほうの落語では、ごく最初に、


  「となりに空き地に囲いができたってね」

  「へー」


 だけで終わる話を高座でやるらしいと聞く。


 それから考えると、ダジャレひとつで800円も相場なのかもしれない。


 昔の落語家では、やる気がない時には本当にダジャレひとつの何十秒の噺をやって終わったというのも聞く。


 なんで私はこんな風に落語の話をしているのだろうか。


 とにかく800円が高いとも言い切れないので入ることにする。


 ネコ寝込ネコんでいた。


 出口で係の人に

「獣医に見せてあげてください」

と言って入場料含め2000円渡して帰ってきた。


 あとで思ったが、何が偽物なのかわからない。

 まあ猫が寝込んでいるのを見せて800円取るということが人を騙している行為に準ずるのは確かだろう。


 後日、気になって行ってみると、件の猫は健やかにコろんでいた。

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偽物小屋 鐘辺完 @belphe506

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