夜の帳

入り口の数メートル前で声をかけられる。

「いらっしゃいませ」

「あの…予約していた山田です」



!!!!!!!



み、美香どうした?

予約なんかした覚えないけど?



「山田様ですね。お待ちしておりました」



???????



どういうこと?



「ごめんね、予約制だったからあらかじめ予約しておいたの」

いたずらっぽく微笑む美香。

み、美香?テヘペロ?

「そ、そうか、ビックリしたなぁ〜」

計算?計算なのか?美香の真意が分からない…

僕達は勧められるまま、窓際の夜景の見える席に座った。

「わぁ、すごいね」

僕の頭はショート寸前だった。

女の子があらかじめ予約取ることってあるの?

後、注文はどうしたらいいの?

教えてグーグルパイセン!あー今すぐ検索かけたい!


「いらっしゃいませ。ご注文はいかがなさいますか?」

あ、メニューある!良かったー。

一応見るけど全然わからん。

「ジントニックで」それしか知らん。

「うーん、分からないなぁ」美香が困っいてる。

ま、まずい…アドバイス出来ない…

「よろしければオリジナルもお作りできますよ。オレンジやカシスを使ってとか、甘めや弱め、何色がいいなど。夕陽などのイメージでも出来ますよ」

バーテンダーさん、ナイスフォロー!さすが解っていらっしゃる。

「じゃあ…今、二人でプラネタリウムに行って来たんです。『星空』のイメージって出来ますか?」

「はい、かしこまりました」

オシャレ〜。美香、実は慣れてるのかな?

バーテンダーさんも出来ちゃうとこがまたすごい。

僕だけついて行けてないなぁ…



しばらくすると、カウンターから小気味良いシェイカーを振る音が聞こえてきた。

そのシェイカーとグラスが僕達のテーブルに運ばれる。

僕の前にはよく冷えたジントニック。

バーテンダーさんがシャンパングラスを置き

シェイカーからグラスの5/1ほどダークブルーの液体を注ぐ。その後グラスを傾け、静かにシャンパンを注ぎ込む。不思議なことに、二つの液体は混じり合わない。人差し指と中指でグラスの足を抑え、スッと美香の前に差し出される。


「『夜の帳』でございます」


ダークブルーの液体は澱のように底に沈み、段々とグラデーションして上層には黄金の気泡が幾筋も立ち昇る。


「素敵…」


僕まで落ちそうになった。

なんて美しいカクテル。

なんて美しい所作。

しかもイケメン。


大丈夫なんだろうか僕。

やっぱりBarなんて僕には敷居が高かったんだ。突然の劣等感に打ちひしがれながら、美香の顔色を伺うと、うっとりと微笑んでいた。やっぱり…


「ブルーベリーの香りがする!」


嬉しそうに言う美香に頷きながら、僕はジントニックを一口飲んだ。

ほろ苦さが身に染みる…

全然酔いそうにない。

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