プラネタリウム

ビュッフェを堪能した後、美香の言うとおり近くのプラネタリウムへ行った。


そこは雲のベッドのような座席はなかったけど、かなり座席がリクライニングして、周りはあまり見えなくなる。

いろんな事がフラッシュバックして汗が吹き出る。

落ち着け…大丈夫だ。キスはもう済ませたじゃないか。

僕達はお互いに実家住まいなので、二人きりになれる場所があまりない。初めてのキスはデートの途中にあった人気の無い公園。後は河川敷とか夜の遊歩道とか、だいたい屋外だ。人目を気にして、軽いキスしか出来なかった。でも、経験のない僕にはそれぐらいが丁度良かった。

だけど今日は──

チャンスかもしれない。二人の仲を深める。

もうちょっとディープなキスだって、経験がないワケじゃない。そう、プラネタリウムで…

美香は経験済みだろうか?アラサーだし、もうすべて経験済みでもおかしくはない。

僕の経験が浅いことを見抜かれたら…

いろんな感情が混ざって汗が止まらない。


辺りが真っ暗になり、僕は美香の手をそっと握った。すると、美香が指を絡めるように握り返してきた!こ、これは‼女性はこうするのが常なのか?!

心臓が一層高鳴る

もう星など見ていない

美香の横顔をじっと見つめる

美香は微笑みながら星を見上げている

「美香…」小さく囁く

美香と目が合う

僕らは唇を重ねる──




放心状態でプラネタリウムからふらふらと出てきた僕に美香はもう1つお願いをした。

「さっきのホテルの最上階にBarがあるらしいの。夜景がすごく綺麗だってパンフレットに書いてあったの。行ってみたいなぁ」

ホテルのBar…なんだか一気に大人のデートになる予感が…わざとなのか?美香の真意がわからない。

「あ、あぁ、いいよ」

しかしビール党の僕にはカクテルなんてオシャレなもんはジントニックくらいしか知らない。それで凌げるんだろうか?

メニューあるかな?Barにだってマトモに行ったことなんてない。ど、どうしよう…。

今さら「居酒屋行こ」なんて言えないし…。

カッコ良くエスコートとか僕の辞書にはありませんタスケテ。

高速で昇ってゆくエレベーターはガラス張りで夜景が見える。

「わぁ〜、綺麗だね」

ああ、美香は嬉しそうだ。


エレベーターが開くと、ふかふかの絨毯が敷き詰められた廊下の先に、眩く光る入り口が見える。脇には小さなテーブルと、タキシードの男性。あれ?予約制?会員制?

わ、分からん…ど、どうすればいいんだ…

考えろ、考えろ山田!

僕はいつもよりゆっくりと歩いた。

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