第8話 ひまわりのような人

  ゴブリンたちとの再会から二週間後の学校からの帰り道。ここのところ、勉強もそっちのけだ。なぜなら、ひみつの結婚式を提案したものの、具体的なプラン—— 例えば、ゲストを誰にするのかなどのアイディアが、全く浮かばないからだ。アルマはすごく絶賛してくれたし、他のゴブリンたちも喜んでくれたのに、もしプランが進まなかったら、がっかりさせてしまう。是非実行させたいなあ。誰かいないかしら? 結婚式をあげられなかった愛し合う二人…。と考えながら、海岸線の歩道を歩いていると、女の人とぶつかりそうになった。

「おっと」ベビーカーに小犬を乗せた小太りの女性と、正面から軽くぶつかってしまった。かぶっている小さな日除け帽が、お花の花びらのようなかわいらしい人だ。

「ごめんなさい」咄嗟にりなが謝る。

「あたしこそ、ごめんねえ。痛くなかった?」

「いえ、私考え事してて」

「あら、おばさんも考え事してたのよ。お互い気をつけましょうね」と、茶目っ気のある目をくしゃっとさせて、にっと笑顔を向けた。とても明るい表情の人だなあ、とりなは思った。後ろに見える夕暮れの、オレンジ色の太陽のもとに咲く、ひまわりのような笑顔だった。

◇◇◇

その夜、りなはママのお手製のシェパーズパイを食べながら、今日あった出来事を話していた。ママが作ったパイは香ばしく、ほわんとした優しい味がする。この味は、世界中探してもママしか作れないと、りなは自信をもって言える。特にお料理教室が開かれた日は、更に腕にふるいがかかるので、手がこんでいてとてもおいしい。

「前の席の木村くんの分度器がね、テスト中にクルクル回ってどこかに飛んで行っちゃったの。そのテストは、分度器がないと解けないから、彼はあせっちゃってね。みんなは気づいてなかったけど、りなだけ気づいちゃったんだ」

「あとママ、今日ひまわりみたいな人に会ったよ」

「ひまわり?」ルナをひざに抱いて紅茶をすすりながら、ママがりなの話に耳を傾ける。

「そうなの。今日、道でぶつかっちゃった人なんだけど、りなが謝ったら、私もぼーっとしててごめんなさいって、すごい明るい笑顔を向けてくれたんだ。一緒に連れてた犬もかわいかったよ。ベビーカーからひょっこり顔を出して」

「あら、それまりさんじゃない? うちのお料理教室の生徒さんよ。今日も来てくださったの。旦那さまのために、お魚料理以外にもレパートリーを増やしたいと言っていて」

「たしかに、良いにおいのするお料理を持ってた気がする。犬がクンクンにおいをかいでいたの」

「それ、愛犬のトトちゃんよ。今日も、うちにいる時、ずーっとお料理に手を出そうとしてて、食べちゃダメって注意するんだけど、しゅんとしちゃってかわいかったな。そうそう、ルナとも戯れてたわよ」

「そうなんだ!もう家族ぐるみだね」りなは嬉しくなった。

「トトちゃんが可愛くてしかたがないんですって。りなが言うようにとっても明るい人よ」

「そうなんだあ。すごい偶然。また会えるといいな。ね、またまりさんはお教室に来るの?」

「たしか来週も来るっておっしゃってた。人って縁があればね、必ずまた会えるものよ」ウィンクをして、ティーカップを持ってママは台所で食器を洗い始めた。

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宵の万華鏡 高橋レイナ @reina_tkhs

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