173:賑やかな居酒屋では、二時間以上。
そんなこんなで、煙草も酒もたしなむ大学生となった彼を、驚嘆やら感動やら、複雑な想いやら、やたらに様になっているのになかば見惚れながら。
そのまま、お互いの話をいろいろとしてゆきました。
後輩くんのほうがよくしゃべっていた気がします。
いま勉強していること。サークルのこと。バイトのこと。趣味のこと。いろいろ、いろいろ……。
よくしゃべるようになったなあ、というのがシンプルで素直な感想でした。
高校のときよりもよくしゃべっていた気がします。
それは、もしかしたら、こうしてふたりだけで顔をつきあわせて飲んでいるから、かもしれませんけれど――なんとなくですが、高校よりも大学のほうが後輩くんにとっては楽しいんだろうなあ、という感想を私は抱きました。
とにかくしゃべりたいことがいっぱいあるようでした。
いくらでも。
後輩くんが、あれやこれやしゃべります。
私はそれに、相槌を打ちます。
お酒や料理がなくなってくると後輩くんは気がついてくれます。注文してくれます。お皿とかも寄せてくれます。気が利きます。接客業のバイトをうまいことやってるとこんなにうまくなるのでしょうか(私の最初やったバイトも接客業でしたけど、私はまったくものになりませんでしたから)。
そして後輩くんはしゃべります。
私は、聴きます。
たまに私がなにか言います。
後輩くんがおもしろがってくれます。
嬉しくて、私もまた言葉を重ねます。
後輩くんはさらにおもしろがってくれて。
そして私は、言葉を重ねて、そして後輩くんの話の続きを促して、そして後輩くんはまたしてもいろんなことを話して――。
そんなことが、二時間、いえそれ以上でしたでしょうか、えんえん、えんえん。
まったく疲れなかったと言えば嘘になります。当時の私はとにかく体力がありませんでしたし、後輩くんともそんなに頻繁に会う親密な関係、というわけではまだありませんでしたから。
なのに、それなのに。
終わらなければいいなあと思いました。
二時間はなんだかあっというまでした。
このまま、もうちょっといっしょにいれたらいいのに――でももちろんそんなわけにはいかない。後輩くんも、私も、帰らなければいけない。おうちに。自宅に。
とりわけ、後輩くんにはもう生活がある。大学生活、いろんなことで忙しくて、充実している大学生活が。引き留めるわけにはいけない。そもそも引き留められるような関係性でも状況でもない、そんな権利は私にはない――。
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