159:気持ちはともかく、実際の日々ではあまり接点もなく。

 この年の想い出といえば、そのくらいです。

 そのくらいでした。



 いまにして思えば、とても大きなことです。じっさい、私は、彼のことを想うたび、心がうずいていました。はてしなく。

 それは、明けない夜に似ていて。もうつかめない、かつてはあった希望そのもののように、思えました。



 気持ちとしては、気になっていても。

 生活的には、ほとんどかかわりのない毎日が過ぎてゆきました。

 彼のようすを知るのはツイッターでのツイートくらい。

 たまに、自分でもわかる話題があれば、私はリプライを飛ばして。


 それくらい。

 そのことくらい。


 どうやって、生きているかもろくに知らず。

 どうなっているかも、ろくに知らず。



 受験生なのだから、邪魔しちゃいけない――それは、その通りだったでしょう。

 そして、だからこそ、……あのときの状況にとっては、よかったのだとも、正直思います。



 だってそのおかげで無駄にべたべたしなくて済んだ。

 私のほうから、無駄に甘えてしまわなくて、済んだ――。




 彼のいない日常はそれはそれで回りました。

 それは、そうでしょう。私は、もう違う環境にいたのです。

 高校のときと比べて、圧倒的に。絶対的に。


 違うひとたちとかかわり、違うひとたちのなかで、違うひとたちと日常を共有して、ぱっとしない、いかんともしがたい日常は、過ぎゆきました。

 二十歳に、なって。

 私は、とても幼かった。

 なにもかもがもの足りなくて。大学にも、行かなくなって。

 たいして親しくも波長もあわなかったひとたちのところで、それでもあちこち行けるしと、とりあえず笑い合うことはできるしと、

 青春、ぽいことできるしと、

 やたらと時間を浪費するように遊んだり――。



 いまさら勝手を言ったって、仕方ない。

 でも、せめて。

 もうすこし、なにかすこし、ひとつでも、タイミングがずれていたならば。



 そんな想いもやがては日々のなかに埋没していきました――。

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