157:あのころはほんとうに私はもっとずっと自分勝手で。

 通話を終えて、なかば呆然として、しゃべり疲れと緊張とろくでもない感情の渦とで、ほとんどろくに動けやしなかった私は。

 自分自身の感傷に浸って、

 繊細な感情の機微を無視して、ただ後輩くんに「いまさら言ってもしょうがないじゃないですか」「先輩にはお相手がいるんでしょう」「びっくり、しましたよ。けどそれ以上のことは、どうにもできないじゃないですか。堂々巡りですよ」と言われたことだけ、その言葉のいちばん表面的な意味だけを、ぐるぐる、ぐるぐると感じとって――ああ失恋したのかなこれ、なんていまにして思えばあらゆる方面に失礼すぎることを、それでもただ、想っていました。




 私も、ぎりぎり十代でした。いまもひとの心に想いをいたすのはお恥ずかしながら下手なほうなのですが、あのころの下手さといったらもうそんないまの比ではなく、あのときの私は、自分が、……自分が、というだけで、後輩くんがそのときどんな気持ちでいるかなんて、まるで考えていなかったと思うのです。



 いえ、考えようとはしていたのかもしれません。

 ただ。でも。……無理だった。




 こんなふうに呆然自失としている私と、お家の自室でかならずやいまなんらかのなにかは感じているだろう後輩くんのことを想像して感じることは、あのときの私には、……あまりにも、重たすぎることだったのです。想像しようとしただけで、限界を迎えてばあんと花火が爆発するかのような状況とでも申しましょうか――。

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