136:もっと、彼とかかわれるのかなって思った。

 私はそのとき高揚していました。

 たしかに、高揚していました。


 それを純粋に、彼への心配や気遣い、声をかけて話を聞こうとかいう、どこかきれいで完璧な気持ちだとは、片づけたくありません。

 かといって、嫉妬からの解放とか、深層心理では喜んでいたとか、そういう単純すぎる説明に還元したくも、ありません。



 どちらもありましたし、どちらでもありませんでした。

 心配しているだけでも、どこかほの暗く喜んでいるだけでも、ありませんでした。




 ……もしかしたらそれは、私がこれからもっと彼にかかわれることの、予感だったのかもしれません。

 大きな予感。



 相談に乗るとかましてや代わりにつきあうとか、そういうわけではありません。

 ただ。



 次にごはんをしたときには、そのことをしゃべって。話して。

 私がなにか、言えるかもしれない。

 かかわれるかもしれない、って。



 神妙に話を聞くふりでいて。

 どこまでも、「先輩」でいたがったようでいて。

 たぶん、ほんとは、ごくシンプルに、彼とかかわれる可能性が増えたことが嬉しかったんだろうなあ――。

 そして、そんな自分自身をちゃんと、自己嫌悪もしていたのですけれど――。

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