127:「あれ先輩。来たんですか」

 練習は、まさに終わろうとしていたときだと記憶してます。

 顧問の先生が背中を押すかのように講堂まではついてきてくれまして、「○○先輩が遊びに来たわよ」的な取り次ぎはしてくださったのですが、あとは若い者同士でねみたいなノリでそのまま職員室に戻られてしまいました。


 部員の反応はとても薄いものでした。いや、そりゃそうです。そもそも私、演劇部じゃなかったのです、二年生から卒業まで、ずっと。

 ○○先輩よと言ったところで、ほとんどの部員が、はあ……となっておしまいのはずなんです。

 それでもまだ三年生のときには私もちょくちょく演劇部にも出入りしていたこと、私の代の卒業公演の脚本を書いたのは私であったということ、文芸部の部長だったこと、そして文芸部と被ってる部員もぽつぽつとはいたということ……などなどが複合的に絡みあい、だれ? みたいな反応にはなりませんでした。


 でも、やっぱり演劇部の人間ではないのです、私は。だから妙に肩が縮こまる気持ちで、「どうも……こんにちは……文芸部だったんだけどね覚えてるかな、ははっ。いやでも卒業したひとなんてろくに覚えてないよねー……あははー……」みたいな感じで、ほんと後輩相手に恐縮してたりしてました。

 でも余談ですが、あの年頃ってある意味年上よりも年下のほうがずっと怖かったりしますよね。それも微妙な距離の年下のひとたちとか。ええ、ええ、怖かったです。怖かったですもの。



 でも、そんななかで、後輩くんは。

 演劇部の、部長さんは。



 まったく変わらずマイペースに、「あれ先輩。来たんですか」って感じの、ノリでした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る