117:そして、やっぱり大学に馴染めなかった私は。

 さて、そんなこんなで後輩くんと記念すべきいちどめの楽しい晩餐会をした、そのあとのことだったと記憶してます。

 しかし、季節はそこまで進んでないはず――おそらくですが、五月の下旬だか六月の上旬だか、そのくらいの時期だったと思います。もう寒くはなく、ちょっと空気が湿ってきて、でもまだ暑い暑いって言い合うほどではない、そんなときの、ことでした。


 とことん大学に馴染めなかった私は、このころからちょっとおかしくなりはじめてました。私がもともとおかしな人間だとか、そういうことではなくて、いまにして思えばだれにでもあるやつです。いわゆる精神の不調とか、心の風邪とか、いまはもう古い言い方なのかもしれませんが、燃え尽き症候群とか。

 なにがいけなかったのかはいまでもときどき考え込んでしまいますが、まあいろんなことが複合的に絡みあっていたのでしょう。大学そのもの、授業、学部、サークル、バイト、家庭……私はどこにも気安さを覚えられず、ぐんぐんすこやかさから遠ざかってゆきました。


 高校に戻りたい、とひたすら思っていた時期でもありました。でも、悲しいかな。友人たちはもうとっくに楽しいキャンパスライフ、あるいは歯を食いしばったかっこいい浪人生活(というのはあまりに配慮のない表現かもしれませんが、当時の若かりしころの配慮のない私の配慮のない感想そのままに書くと、こうなります)に突入していて、ときおり集まりはすれど、新生活のほうがみんなだいじになっている。私はそう感じていましたし、それはある程度は事実だったのだといま振り返っても、思います。

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