105:彼にね、メールをいたしたのですよ。
なんのことはない。私は、彼を思い出したのでした。
学園を卒業して一ヶ月ちょい。ただそれだけの時間だったのに、彼とはもうずいぶん疎遠になってしまったように感じていました。
私が卒業してからいちども会いませんでしたが、これから会う機会が皆無かといえば、そんなこともないでしょう。すくなくともその年の文化祭には行くつもりでしたし。彼も卒業すればその直後の年くらいは文化祭に顔を出すくらいはするかもしれません。
だからたぶん、このままだって一度か二度は、顔を見ることくらいはできるのでしょう。
でも、たぶん、それだけです。それだけ。なんどか、顔を合わせて――あとはもう生涯疎遠に。そんなことなど、……容易に想像できました。
私はそのとき実家の最寄り駅の騒がしい地上広場のエスカレーターの根元の柱の前で、じっと分厚い携帯電話を睨んでいました。
このころにはまだ、恋愛感情だと自覚はできていませんでした。ああ、彼とはもうこれからかかわることもなくなるんだなあ、という気持ちを、無性にさびしく自覚していただけです。
あの、おもしろい後輩と。――おもしろいひとと。
けっこう、悩んだ記憶があります。それこそ、雑踏全体の雰囲気が、昼下がりのものから夕方のものへと入れ替わるくらいには。
そして私はけっきょくメールを送り――こんどお茶とごはんでもどう? と、お誘いしたのでした。
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