106:オッケーを、もらったのですよ。

 そのあとは、返事をとても気にしながら待っていた気がします。

 返信を受け取ったのは、さすがに自宅に帰ってからでしょうか。それとも気になりすぎて、意味もなくあの柱のふもとにいたのでしょうか。わかりません。あのころは私は意味もなく、街を放浪する癖がついていました。


 どこで受け取ったかはさだかではなくとも――たしか、二時間くらいしたのち。

 いいですよー、という返事が来て、私はめちゃくちゃびっくりしました。


 いえ、彼もあのとき、めちゃくちゃびっくりしていたはずなのです。

 いまだにほかのひとから馴れ初めを訊かれると挙げるエピソードでもあります。



 彼の言い分としては、「そっちが誘ってきたんだからそっちがきっかけ!」ということらしいですが、こっちとしては「そっちが告白してきたんだからそっちが決定的なきっかけ!」って……まあ、こういうのはお互いキリがないですねえ。



 ただ、たしかに。男子高校生の身だった彼。卒業後の先輩に、ふたりで夜ごはん行かない? なんて、それはもう衝撃だったのはわかります。

 それに、たぶん、……それ以上に。

 私はあの部活ではだれにでも興味があり、またかつだれにも興味がないように見えていたでしょう――だから彼に興味がピンポイントに向いていたと知ったときの彼の驚きは、想像するだに愉しい気持ちになりますね。

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