79:それはこういう深いわけで。

 なぜかと言うと、これはあくまでもあとで知るのですが、

 彼女は、彼のことが気になっていたのです。


 そして時系列は、また戻ります。

 私は高三、彼は高二。後輩ちゃんは中学三年。

 どことなくさみしくなってきていた文芸部で――。


 いつだったのでしょうか、後輩ちゃんからその話を聴いたのは。たしか、六月ごろだったと思うのです。私はそろそろ文芸部の引退を決めなきゃって思ってましたから。

 文芸部と演劇部の関係性の伝統に漏れず、後輩ちゃんも演劇部に入ったことは、もちろん私は知っていました。お芝居も楽しいみたいで、でも文芸部にも参加してくれますから、私は相変わらず嬉しく、好ましく思っていました。


 たしか、メールだったと思うのです。そして、たまたま彼女とふたりきりになれたタイミングで、こそっと聞いたと思うのです。いえ。あるいは、順番は逆だったかもしれません。


 ただ私が彼女の淡いあこがれや恋心を聞いたことは間違いないです。



「菜月先輩。じつは、私……」



 それはまるで耳元でささやかれるような経験でした。いえ、いえいえ、実際にはまさかそんな百合漫画みたいな展開ではなかったのですが。想い出の、心象風景として、ってことですね。



 そして私はすぐに、後輩ちゃんに協力することを確約しました。

 つまり、恋のキューピッドに、天使になると。



 そのときの複雑な自分の心中をろくに確かめようともせず――。

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