67:彼の、ほんとうにおもしろくて、あのころからむつかしかったところ。

 彼にとってそれは、そういう態度は、決心とかじゃないんです。たぶん、前提、あるいはそれに類するなにかで。

 のちに知ります。彼は家庭での目立った反抗期もなければ、ひとと真正面から喧嘩したこともないし、人間関係のトラブルはほとんどなく、人前でろくに涙さえ流さない――と。



 そう。動じないんです。いつ、いかなるときにも。

 だから、すくなくとも――まったく動じてないように見えるんです。


 彼はまれにですが私には本音、すくなくともそう思えるたぐいのものを言ってくれます。でも、ほんとうにまれです。もう丸四年もつきあって、今月には入籍、そんな距離にいる私ですが、それでさえ――ほんとうに、まれなんです。


 そういうのを聞くたびに私はいつも、ああ、って思うのですけども。

 ああ――ほんとうは。

 人一倍いろんなことを感じて、考えて、ひとりで呑み下しているのに――って。



 そういう内面が、こうして、高校のころからおとなのいままで、一貫してわかりやすくあらわになることがない。そういうひと――私は勝手に、彼のことをそう思ってます。だから、隣にいたいって、願ったりもしたのですよね。




 ぼんやりしていたわけではない。それしか、できなかったのかもしれないし。

 動じなかったわけではない。ただ、動じないふうに見える反応しか、できなかったのかもしれない。



 ……それは、後年思ったことです。

 私は、まだ高校生のこのときには、彼の奥底のほんとうに反応してくれているところを、つゆ知らず。


 ただ、無邪気に、やったー、じゃあこれから名前呼びするね! ねえ、ねえねえ、なんとかくん! なんとかくん!! って――はしゃぎ続けていました。

 それこそ、ひとの気も知らずに――。




 そして、春休み中のそんなできごとを経て。私も彼も、それぞれぶじに進級いたします。

 出会ってから二回めの、春が、四月が、やってきました。

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